「異世界Cマート繁盛記」

kenkyukan2018-08-31

 集英社ダッシュエックス文庫ライトノベル異世界Cマート繁盛記」のコミカライズ1巻が先日発売されました。あの「GJ部」の作者コンビである新木伸・あるやの最新作。「GJ部」でも新木さんが原作小説を執筆し、あるやさんがその挿絵を担当、のちに始まったコミカライズもあるやさんがそのまま担当ということで、原作とコミックでイメージの差が無いことが大きな魅力でした。かつてのコミカライズは4コママンガで、4コマとしての面白さにも見るべきものがありましたが、今回は通常のコマ割のマンガ。しかし、そのかわいい絵とほのぼのした内容は健在でした。
 「異世界Cマート繁盛記」は、タイトルからも推測されるとおり、異世界でCマートという名前のスーパーをやる話。実際に店を運営するのは、主人公とエルフの少女のふたりが中心で、スーパーよりはコンビニに近い雰囲気だなと思いました。個人的には、異世界でセ○コーマートをやる話だと思っています(笑)。

 異世界(あるいは異世界に繋がる場所)で何か店や商売をやる話は、他にもいろいろ見られますが、この作品の特徴としては、どこまでも緩やかな設定で、異世界ものでよく見られる障壁やストレスが非常に少ないことが挙げられます。主人公は、ごく簡単に道を歩いていくだけで元の現代世界と行き来することが可能で、現代の物資をいくらでも持ち込むことも出来ます。ゆえに、主人公が元の世界に戻れないという寂しさや、現代の便利な道具を使えないという不便さは一切ありません。数ある異世界ものの中でも、最もゆるいタイプの設定ではないかと思います。

 加えて、異世界側の住人たちもみんな優しい人たちで、その社会も穏やかなものであるようです。ゆえに、店をやるにあたって客との間に軋轢が起こることも少ない。数少ない暗めの要素としては、街に生きる孤児の存在があり、小さい子供のうちは各家庭で持ち回りで育てられる仕組みになっているようです。しかし、本来ファンタジーの世界で打ち捨てられることの多い孤児を、街で保護する慣習が確立しているだけでも優しい設定と言えます。
 Cマートにもエナという孤児の少女がひとりやってくることになりますが、主人公とエルフのふたりがやがて引き取って一緒に暮らすことになり、この家族のような優しい関係がひとつの大きな見所ともなっています。

 こうした穏やかで優しい設定となった理由としては、原作者の新木先生がかつて語っていた「コンビニ前でたむろしている若者たちを見て、誰もがほっと安らげるような作品を書きたかった」という話があると思います。GJ部がまさにそうして生まれた作品だったのですが、異世界ものである今回の「Cマート繁盛記」も、そのコンセプトはいまだ生きていて、異世界ものによく見られる難題や障壁のないストレスフリーな作品になっているのではないか。あるやさんのかわいい作画もそれをばっちり再現していますし、原作ともどもこの作品を応援していきたいと思っています。