海の底には何がある? このページをアンテナに追加 RSSフィード

2015-11-10 研究生活最大のショック

朝、交尾の後にメスの交尾器を壊してしまうクモを発見という記事がナショナルジオグラフィックのサイトに出ているのに気がついてのけぞる。この日記でもたびたび書いてきていた事だが、私もギンメッキゴミグモで交尾後にメスの交尾器が破壊され、それによりメスの再交尾能力が失われる事を発見していたからだな。種は違えども、全く同じ内容の研究だ。これは世界で初めての発見なので、私的には興奮して1年半いろいろ実験してきていたところ、全く同じ研究が他所から出たという事は、発見者は私じゃない事になってしまうわけで、とても辛い。実際は独立に二つの研究が行われていたわけだが、科学の世界では論文の出版が全てなわけで、いくら「私も見つけていた」って言っても仕方ないわけ。いや、こういう事は生き馬の目を抜く最先端の生命科学分野で起こるもので、まさかのどかな動物行動学分野に暮らす私がこんな経験をするなんて思わなかった。。。いや、本当は少し可能性があると思っていたけど、まさか現実に起こるとは。。。という。

で、Current Biologyに載った当該の論文はSecuring Paternity by Mutilating Female Genitalia in Spidersというもの。悲しい事にabstractと縮小された図しか見れていないが、この論文では、交尾の前後でメスの交尾器の変化を観察してその一部が壊れている事、壊れたメスにさらにオスを仕掛けても再交尾に失敗する事、壊れていないメスなら再交尾できる事、人為的に未交尾メスの交尾器を破壊した場合も再交尾しない事、二回の挿入からなる一連の交尾行動の途中の一度目の挿入後には交尾器は壊れていない事、が示されているようだ。加えて交尾中のペアを液体窒素で凍結してCTを使って観察する事でオスの交尾器が、破壊されるメスの部位をがっちり挟んでいる事を確認し、交尾が終わって離れるときに捩じ切っているのだろうと推測している。で、この内容までが、液体窒素を使ったところを除いて、私の行ったものと全く同じという。液体窒素の使用は私もやりたかったのだけど、私学文系の貧弱な設備では困難で、かつ、確かにあればいいけど本質的に重要なデータじゃないし(オスの交尾器がメスの破壊部位を挟み込む事は既に他の種で示されている)、と思って見送ってたものだ。

そして、先を越された私だけれど、実は7月に同じCurrent Biologyに自分の原稿を投稿していたのだ。だけど、主に、オスが破壊しているかどうか確実ではないという理由と、研究規模が小さい、という理由でリジェクトされたのである。私的には、前者の問題は意識していて論文では交尾器破壊の再交尾抑制能を中心に書いてオスの果たす役割はスペキュレーションに止めており、また後者についてはサンプル数は十分だしハイテク機械を使わなくたって結果が明らかなんだから問題ないと思っていて、少々釈然としないリジェクトだったけど、まあ仕方ないから諦めて、今は別のところに投稿中なのだな。それが、ほとんど同じ論文が同じ雑誌から公表されたのだ。そりゃ確かに向こうの方が優れているのだけど、なんだかなあと思ったっていいだろう。オスによる破壊がスペキュレーションであるのは今回の論文でも同じなわけで。CT使うのがそんなに偉いわけでもないだろう(だけど、こういうところで負けてしまうという現実があるので、研究による競争力を高めたければ、設備他の研究環境を整えなきゃダメですよほんと)(ここの部分、早とちりでした。すみません。追記をみてください)。

で、向こうの投稿日を見ると、私の投稿より40日も遅いのだ。40日遅いと言っても行動データを揃えて論文書くのは不可能だから、向こうが査読過程でこっちのを見て慌てて研究コピーしたわけじゃなく、本当に偶然で同じ研究が独立に行われていたということだ。まあ、私の原稿の査読が向こうに行ってる可能性はあるとは思うけど。それはともかく、もうこれでメスの交尾器破壊の第一発見者は私としては認められなくなったけれど、でも私も発見してたんだよ、という事を自分の慰めのために記しておく。この点で、夏のケアンズの学会の講演要旨がネットで見られるのは幸いである。

いや、ポジティブに考えたらば、こういう先陣争いに巻き込まれるって事は、つまりオレってちゃんとこの分野の先端で戦ってるって事じゃん?老兵は死なずじゃん?

っていうか、これで今投稿中の原稿もリジェクト必至だ。第一発見者じゃなくなったのよりも、今回のデータを生かすために次に出そうと思っていたデータを加えて大幅に原稿を仕立て直すのに手間をかけなきゃいけなくなったのが悲しい。普通のリジェクトなら、すぐ別の雑誌に投げるだけで手間はかからないのになあ。ただでさえ状況の悪いポジションで研究してるんだから、効率の悪い事やってたらダメなのに。。。泣きそう。

追記(2015/11/11、16:01):論文PDFをやっと入手。CT観察はオスの関与を証明する上で確かに重要だったようで、オスの交尾器が切断部位を切り裂いているように見える写真が載っている。これは確かに先方の方が私のスペキュレーションより優れている。。。くうう。ということで、先方にしてみたら、これで私のが先に出てたら、もっと辛かろうから、これで良かったのかもしれない。でもなあ、これがなくても交尾器破壊が再交尾能を奪っているってことは私も証明できてると思うんだけどなあ。

さらに追記(2015/11/11、17:36):論文をよく読んだら、やっぱりこっちでもスペキュレーションから完全に脱せているわけでもなさそうだ。正確に言うと、オスの交尾器は切断部位に突き刺さっているだけで、これを完全な破壊に持っていくためにはやっぱりねじりの力が必要に思える。けど、そこはこの論文では示されていない。あと、この論文には、小さいながら私のにはない瑕疵があるようだ。というのは、交尾器が破壊されない場合は再交尾が起こることを示すために、この論文では交尾を途中で中断させて(オスによる挿入は一回きり)破壊の起きていないメスを作っている。一方、クモのメスは交尾孔と精子を受けるための受精嚢を二つ持っているので、両方の受精嚢を埋めるためには最低二度のオスの挿入が必要。ということで、この論文で使われている再交尾を行ったメスは、左右どちらか片側の受精嚢はまだ空っぽの状態だ。なので、再交尾を行ったメスはまだ埋まっていない受精嚢で交尾しようとしているだけなのじゃないか?というイチャモンをつけようと思えばつけられる。いや、私はそんなことないと確信しているけどさ。これ、私の見ているのとほとんど同じ現象だよ。

とおりすがりとおりすがり 2015/11/11 14:24 私にも同じような経験があります
科学の世界では日常茶飯事ですがね
私は恥ずかしいこと(結果を出すのが遅い、資金がない=優秀でない、その他もろもろ)だと感じるのであまり言いふらさないようにしていますが
まあでも色々な方の話を聞いていると結構みなさんこのような経験をされているようです

別のとおりすがり別のとおりすがり 2015/11/11 14:59 >とおりすがり
何それ? お前は単にこの投稿を認めたくないだけじゃね?
言いふらさないようにしている?w
証拠がないことにはお前が言ってることは嘘同然だよ。

また別の通りすがりまた別の通りすがり 2015/11/11 18:53 「あと、この論文には、小さいながら私のにはない瑕疵があるようだ。」
これなんだよね、日本人が負ける理由は。
O-157ゲノムも完璧を期そうとして米に負けた。
先方はミスアセンブリという大きな瑕疵を放置して発表(後にしれっと訂正)。
考え方は色々だけど、話題性を最優先するのも時にはアリかな。

更に別のとりすがり更に別のとりすがり 2015/11/11 18:55  リジェクトは酷いなあ。 査読者が故意に遅らせる、弟子に発表をすぐに纏めさせて先行発表させる、ってのは良く聞くが。 余程の重鎮の政治力が働いたのか。

新たなとおりすがり新たなとおりすがり 2015/11/11 21:17 こういう場合、エディターがちゃんと仕事していれば両方を同時にアクセプトすると思います。連絡取りました?

コメントのように、恥ずかしい事として自分の研究を主張しないのは逆にだめだと思います。出版が後でも、同時期の研究と見なされて、後から出たものが広がるなんてこともありますし、頑張ってください。

kensuke_nakatakensuke_nakata 2015/11/11 22:10 通りすがりの皆さん、いろいろお言葉ありがとうございます。

私がリジェクトされた理由の部分を今回公表された論文ではクリアしているので、向こうの方が優れているのは確かです。私としては、だからといって、こちらのを落とす事はなかったんじゃないかなと思っているのですが、そこは何を重視するかの違いですから、強く主張する事は難しそうです。

原稿は現在他のところに投稿されていますので、そちらの結果を待つ必要があります。幸い、査読の速い雑誌なので、その結果をこの日記に書ける日がすぐ来ると思ってます。今後の私のデータをどうするか考えるのはそれからになるでしょう。

とおりすがりとおりすがり 2015/11/12 10:53 >別のとおりすがり
>何それ? お前は単にこの投稿を認めたくないだけじゃね?
投稿を認めたくないって言葉の意図がよくわからん、論文を認めたくないならわかるんだが。
この投稿が主張しているのは自分も同じ研究をしてたってことと、先にほかのチームの論文がacceptされて悲しいってことだろ?そこは別にそうなんだくらいにしか思ってないぞ。
先に論文を投稿してリジェクトされたのも嘘だと思ってないし、そもそもよくあることだからな。別に疑ってはいない。
>証拠がないことにはお前が言ってることは嘘同然だよ。
この部分は日本語がおかしいから理解できん。
俺が同じような経験をした証拠を出せってことか?それは身ばれするので断る。
優秀でないってのは一般論で、結果がすべての世界だからなあ。結果ってのは論文ってことね。この世界は論文の本数とかインパクトファクターがほとんどすべてなんだ。金がないってのは文章中からそう読み取った(研究環境を整えなきゃとか悪いポジションとか)。確かにここは明記されてないな。間違ってたら申し訳ない。

別のとおりすがり、お前は俺が恥ずかしいことと書いたからこの筆者を窘めてるように感じて、「外野が何を」って思ったのか?恥ずかしいことってのは俺が感じたことで、別に筆者がどう感じたかわ知らんし自分のブログに何書こうと公序良俗の範囲内なら勝手だと思ってるよ。でもやっぱり結果を出せないのは自分の力不足だよ。金がないのも人手がないのもそれでデータが足りないのも結局は自分の力不足さ。
億を超える金をかけてデータ出して一日遅れで特許とれなかったら成果はゼロだからな。で、あとで同じ年に10社くらいが同じ年に特許申請してたことを知るわけさ(実話)。でも自分は成果ゼロ。まあそういう世界さ。

他人のブログのコメント欄で長文失礼。

Newの通りすがりNewの通りすがり 2015/11/12 12:07 >> 何それ? お前は単にこの投稿を認めたくないだけじゃね?
> 投稿を認めたくないって言葉の意図がよくわからん、論文を認めたくないならわかるんだが。
意図分かってるじゃねーかよ。

>> 証拠がないことにはお前が言ってることは嘘同然だよ。
> この部分は日本語がおかしいから理解できん。
> 俺が同じような経験をした証拠を出せってことか?それは身ばれするので断る。
これも理解できてるじゃねーかよ。
身ばれするので断るw はいはいw

> 恥ずかしいことってのは俺が感じたことで、別に筆者がどう感じたかわ知らんし
それならもっと別の書き方があるだろう。

> 他人のブログのコメント欄で長文失礼。
なら初めから他人に突っ込まれるようなことを書くな。 頭使え馬鹿野郎。

Newの通りすがりNewの通りすがり 2015/11/12 12:07 >> 何それ? お前は単にこの投稿を認めたくないだけじゃね?
> 投稿を認めたくないって言葉の意図がよくわからん、論文を認めたくないならわかるんだが。
意図分かってるじゃねーかよ。

>> 証拠がないことにはお前が言ってることは嘘同然だよ。
> この部分は日本語がおかしいから理解できん。
> 俺が同じような経験をした証拠を出せってことか?それは身ばれするので断る。
これも理解できてるじゃねーかよ。
身ばれするので断るw はいはいw

> 恥ずかしいことってのは俺が感じたことで、別に筆者がどう感じたかわ知らんし
それならもっと別の書き方があるだろう。

> 他人のブログのコメント欄で長文失礼。
なら初めから他人に突っ込まれるようなことを書くな。 頭使え馬鹿野郎。

kensuke_nakatakensuke_nakata 2015/11/12 17:49 えーと、とおりすがりのお二人にはそう熱くなられずに。

それはともかく、一番を逸した件について。行動学を含む自然誌研究では、一番でなかったからといって必ずしも価値がゼロになるわけではありません。多様性は生物の本質の一つなので、ある発見が即全体を統べることにはならないからです。上でも「ほとんど同じ現象」と書きましたが、「ほとんど」ということは、全く同じではないわけで、私の見ているクモとは現象の細部に微妙な違いがあります。この違いが何を意味しているか、今考えているのですが、私が自分の研究を二番手として発表しておけば、いつかこの違いが重要だったとわかる日がくるかもしれません。またそうでなかったとしても、多くの種で同じような観察が積み重ねられることで、この現象の進化の道筋の解明に役に立つことが期待できます。自然史研究はそういう分野なのです。

kokumokokumo 2015/11/12 21:44 ネットサーフィン中に何気なく辿っていったリンクの先でこのブログを拝読致しました。
nakataさんが今回経験されたような事は色々な研究に携わる方々に日常的に降りかかっているのですね。
素晴らしい研究成果・発表の影に大々的に訴える訳でもなく、ひっそりと遣る瀬無い思いを噛み締めている人達が居るのだと知りました。
しかしコメント欄の「一番でなかったからといって必ずしも価値がゼロになるわけではありません。」という言葉に救われますね。
とかく第一発見者にもっとも価値がある!…みたいな先入観を抱いてしまいがちでしたが、そんな自分の浅はかな認識が改められました。
研究資金が潤沢にある海外の機関とは違い、制約が多い環境なのかも知れませんがこらからもご自身の研究を頑張って下さいね。
陰ながら応援しております。

kensuke_nakatakensuke_nakata 2015/11/12 23:19 ありがとうございます。本文にも書きましたように、一番を逃したのが、辛かった最大の要因ではないのです。確かに、論文が出たら、きっとメディアとかに取り上げられるだろうなウフウフとか皮算用してたのですが、冷静に考えればそれはただの虚栄心なので、失われたからといって困るわけではありません。私の中には、今回の論文が出たことで、「やっぱりオレの考えてたことは間違ってなかったんだ」という嬉しさもあったりします。

研究環境については、自分では選べない部分も大きいですので、与えられた条件でできることに注力するだけです。過去には上手くいったときもありますし、今回のように間が悪いときもあるということで。

老兵とはいえまだ研究生活は長く続きますので、これからも良い発見ができればなと思っています。お見守りください。

とおりすがりとおりすがり 2015/11/13 11:24 >Newの通りすがり
お前は別のとおりすがりとは別人か?なら俺が可能性として提示した中からお前が自分で選んだだけじゃねーか

>kensuke nakata様
kensuke様の研究分野は私の分野とは異なるようで、2番手でも価値がゼロではないのはなによりです。しかし、やはり今まで頑張ってこられた分、先を越されたのは残念でしょう。私も、最初にこのような経験をしたときは、修士課程の学生でしたが、しばらく落ち込みました。卒業に英語論文(査読付き)が必要な博士課程でなかったのが不幸中の幸いでしたが。
見ず知らずの方に対して無責任なことしか申せませんが、ご研究頑張ってください。

kensuke_nakatakensuke_nakata 2015/11/13 15:44 ありがとうございます。まだ論文にはしていませんが、同じネタでさらに観察を積み重ねており、向こうの論文に書かれている事とつきあわせると、次の展開の方向性がぼんやり見えるなあという状態です。また楽しくなってきました。がんばります。

ぱんたぱんた 2015/11/18 17:15 こういうの、とりあえず小さな雑誌に投稿しておけば、採用されたのでは? そうすれば「おれが先だぞ」と威張れたはずだが。あと、液体窒素ぐらいは、コネがあれば簡単に使える。共同研究者を得るコミュ力があれば、道具の差は克服できた。厳密に実証しようとする科学的な証明の必要性を自覚できなかったのが、致命的だった。

kensuke_nakatakensuke_nakata 2015/11/18 20:54 厳しいお言葉、痛み入ります。もっと小さな雑誌に投稿しておけば、という点、後知恵としては100%同意できます。そうしておけばよかった。。。

あと、本文にも書いたように液体窒素を使うことも考えました。ですが、いくつかの理由から(本種のまだ公表していない生態と関係しますので詳細な説明は今はお許しください)、うまく観察できるまでにはかなりの試行錯誤が必要で、下手すると一年くらい棒に振る可能性もあるな、と思っていました。

一方、私は既にローテク実験ながらも交尾器の破壊がメスの交尾能力を奪うことについては証明できており、間接的ながらもここにオスが関与していることを強く示唆するデータを持っていました。ここで私には、液体窒素を使うなどしてオスの関与を完全に証明してから論文を出すか、それとも多少の不備はわかった上でも先に公表するかの選択があったわけです。で、この現象は、設備や人員が豊富な海外のラボに気がつかれてしまえば、少なくとも私のレベルまでは簡単に研究を進められてしまう性質のものです。ですから、うかうかしていると先を越される可能性はある、と思っていました(その懸念は当たっていたわけです)。そのために、液体窒素の使用は次の課題にして今はこれで公表しよう、と思ったわけです。

その方針なら最初からアクセプト確実な小さな雑誌に、という話に戻るのですが、先を越される可能性はあるとは思っていましたが、ここまで切羽詰まっているとは予想してなかったのです。なのでまずは小さな雑誌じゃなくっても、という欲が出たわけです。

結果的に失敗したわけですから、判断ミスじゃないか、と言われれば黙って頭を下げるしかありません。しかし、この手の失敗を、例えば小さな雑誌に好んで投稿することで完全に回避しようとするのは、やればできることとは思いますが、私としてはあまりやりたくはないのです。