唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

まさに人を食った書評。

 唐沢俊一が8月31日の「朝日新聞」で、デヴィッド・マドセン『カニバリストの告白』(角川グループパブリッシング )の書評を書いているが、相変わらずダメである
 まず、唐沢は『カニバリストの告白』が人肉嗜好をテーマにした小説であることをなぜか伏せている。伏せた理由は分からないが、いずれにしてもそれは意味のないことだ。タイトルに「カニバリスト」とあるのだから、人肉を喰う話だと一発でわかってしまう。テーマを伏せなかったなら、他の人肉嗜好をテーマにした小説のタイトルを挙げたこともできたはずなので、自分からわざわざ不利になるようなことをしているのが不思議である(朝日新聞から規制があった様子もない。それに規制するくらいなら最初から書評委員会で本が取り上げられるはずがない)。書評をする場合に、テーマやテイストが似た作品のタイトルを挙げて読者の興味を惹くのは基本中の基本だと思うのだけど。今回だったら、武田泰淳ひかりごけ』でもハンニバル・レクターでも取り上げればよかったと思うのだが(小説に限らなければ『スウィーニー・トッド』を紹介してジョニー・デップ好きの女の子を狙ってみるとか)。さらに言えば、唐沢俊一って佐川一政と面識があるのではなかったか(例に漏れずケンカ別れしたらしいが)。おいしいネタをむざむざ捨てているのが本当に不思議でならない。

 唐沢はいつも通り、『カニバリストの告白』の紹介を途中でやめてしまって、後半は自分語りをしてしまっている。

あまりの内容に、こんな小説を面白い、などと評しようものなら、人間性を疑われるのではないか、と心配になってきさえする。しかし、声をひそめて言ってしまえば、この本は、名誉欲・出世欲にかられた人間の醜悪さを描く現代の寓話(ぐうわ)として、きわめてよく出来た上質の作品だし、悪趣味もここまで徹底して描かれると、むしろユーモラスに感じられる。登場人物たちの性格も強烈に戯画化されており、美食の世界を舞台にしたピカレスク(悪漢小説)として読めば、痛快さすら感じられるかも知れない。

 「天下の朝日新聞でこんな悪趣味な本をとりあげちゃってるんだぜ」と思いつつも、文句を言われやしないかと心配になっていろいろ言い訳している格好である。…いや、そんな言い訳をする前にもっと本の内容を紹介すべきだろう。言い訳するくらいならそんな本を取り上げなければいいのだ。「トンデモ本」に詳しいところをアピールしようとして腰が引けてしまって中途半端になっているのが実にカッコ悪い。

悪趣味の効用、というようなものがあるとすれば、それは、社会的地位や対人関係に縛られて硬直してしまったわれわれの精神を解放させ、人間らしさの本質をそこにのぞかせることである。たまには家族に隠れてこういう作品を読んでみるのも、心のいいストレッチになるだろう。

 この文章の締めを読んだ時、「唐沢俊一は堕落した」とつくづく思った。というか、「悪趣味」も舐められたものだと思う。唐沢が言ってるのは、「悪趣味というのも意外と役に立ちますよ」ということなのだが、「悪趣味」に走る人は何かに役立てようと思ってやってるわけではなく、やむにやまれずやっているのだと思う。それにしても、悪趣味が「心のいいストレッチ」なのだとしたら、たまにうっかりネット上でグロ画像を見てしまうことも「心のいいストレッチ」なんだろうか。それに、他人に悪趣味な嗜好を持っていることがバレてしまったとき、「心のいいストレッチなんですよ」と弁解しても誰も聞く耳を持ちやしないだろう(それにしても「心のいいストレッチ」という言い回しは少しヘンである)。「悪趣味」についてこの程度の認識を持っていない唐沢には、児童ポルノの規制について話をしてほしくないものだと思った。いや、規制に賛成か反対かという以前に、認識の甘い人が議論に加わったら話がこじれるだけなので。どうせ「地下に潜れ」とかよくわからないことを言うに決まってるし。
 ちなみに今回の書評についての唐沢は日記でこのように書いている。

朝日新聞書評、書き出す。これが書いていて実に楽しいが、また難しい。
およそ最も朝日で書評するのにふさわしくない内容の小説だろうと思うのだが、読んで面白いったらない。
以前の私だったら嬉々としてアブナく書いたろうが、そこはそれ、もう50なのだからオトナ的に書く。

 唐沢にしてみれば、大人の態度で書評を書いたつもりなのだろうが、「悪趣味も役に立つ」という理屈は単に迎合しているとしか思えない。だから「唐沢俊一は堕落した」と思ったのだ(気づくの遅いですか?)。雑学にしてもそうである。以前は「雑学はアヤシゲなところが魅力」と言っていたのに、最近ではそんなことは言っていない。「雑学も役に立つ」というスタンスをとっているのではないだろうか?もうひとつ付け加えるなら、「悪趣味」な本を取り上げたことについていちいち言い訳している唐沢はちっとも「オトナ的」ではない。本当に大人の態度をとって書評を書くなら、本が「悪趣味」でもいちいちはしゃいだりしないで淡々と内容を紹介していくはずだと思う。「人肉嗜好と聞くとギョッとするが、実は人肉嗜好を題材にした作品は珍しくないのだ…」とかそういう感じに。そして、実際に大森望はそのように『カニバリストの告白』の書評を書いている。唐沢と大森氏の書評を比較してみると(比較すること自体無理があるが)、唐沢のダメさ加減がわかってウンザリしてくる。唐沢は大森氏の書評をくりかえし読んで反省すべきだろう。

 なお、唐沢はこんなことも日記に書いているが、

入浴前に、朝日新聞を買いに出る。日曜の読書面、いつもは水曜にネットサイトに上がるのを待って読むのだが今回はやはり気になるので確認。
おお、載っている載っていると喜ぶ。
書けば載るのは当たり前だが、今回は内容が内容だけに油断できず。
結局、ギリギリでNGになったワードは“老人性愛”で、評した本の中では、主人公(シェフ)の師匠が若い弟子に肉体を要求するかなりグロな場面なのだが、老人性愛と一言で言ってしまうと、歳をとってもセックスを実行している読者から“老人が性欲を持つのは悪いことなのか”と苦情がくる可能性がある、という理由だった。
ま、新聞という媒体の持つ性質上、これは仕方ない。

それ以前に、「老人性愛」というのは、老人にしか性欲が持てないことを言うのであって、老人が若者に対して性欲を持つのは「老人性愛」ではない。「小児性愛」だって子供が性欲を持つことじゃないのだし。ガセが全国に広まる前に未然に食い止められてよかったと言うべきか。

カニバリストの告白

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ひかりごけ (新潮文庫)

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羊たちの沈黙 (新潮文庫)

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