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唐沢俊一検証blog

2008-09-09

小人の魔法使いのことではない。

17:24

唐沢俊一『薬局通』(ハヤカワ文庫)P.196

また、歌舞伎外郎売りというのがある。早口で売り立ての台詞をいう薬で、この外郎は透頂香ともいい、一種の口中清涼剤であった。名古屋名物のあの餅菓子は、外見がこの外郎に似ているところからそう名付けられたのである。十返舎一九の『東海道中膝栗毛』に、菓子と間違えて薬の外郎を食べてしまった弥次郎兵衛と喜多八が、

ういろうを餅かとうまくだまされて こは薬じゃとにがいかほする」

狂歌をひねる場面がある。

 この文章を読んで真っ先に疑問に感じるのは、薬の外郎外郎餅の外見が似ているというところだ(また、色が薬と似ていたから」という説も有る)。餅に似ている薬ってあるのだろうか?しかも「一種の口中清涼剤」である。チューインガムみたいなものなんだろうか。

 こういうときは実物を見てみるに限る。外郎餅のほうはみなさんご存知だろうから、薬の方を見てみる。…どう見ても餅には見えない。したがって、「外見がこの外郎に似ているところからそう名付けられたのである。」というのはガセということになる。外郎餅というのは、外郎薬を売っている外郎家がお客に振舞っていたお菓子が評判となり、後に薬と一緒に売り出すことになったものである(詳しくはここを参照)。

 さて、そうなると、弥次さん喜多さんが薬とお菓子を間違えて食べてしまったというのもおかしくなっている。いくら二人がうっかり者とはいえ、そんな勘違いをするとは考えにくい。というわけで、『東海道中膝栗毛』から問題の場面を引用する(岩波文庫版上巻100ページより。なお、一部表現を変えたところがある)。

弥二「これが名物のういろうだ」

北「ひとつ買て見よふ。味(うめ)へかの」 

弥二「うめへだんか。頤がおちらあ」 

北「ヲヤ餅かとおもつたら、くすりみせだな」 

弥二「ハハハハハ、こうもあろふか」

ういろうを餅かとうまくだまされて こは薬じやと苦いかほする

 これは薬を飲んではいないのではないか。喜多(北)さんはお菓子の店だと思って店に行ったら「ヲヤ餅かとおもつたら、くすりみせだな」と驚いているのだから。そして「苦いかほする」とは、苦い薬を飲んだわけではなく(「口中清涼剤」が苦いのだろうか?)、名物のお菓子を食べ損ねてガッカリして「苦い顔をする」ということなのだろう。薬と餅を勘違いして食べることが考えにくい以上、このように解釈するのが妥当である。

追記 江戸時代の書物『和漢三才図会』には、外郎薬が「黒色・方形」であり、薬と餅の外見が「やや似ている」として、餅菓子に「ういろう」の名前がついたとしている。つまり、「外見が外郎薬に似ているからういろうと名付けられた」説の元は『和漢三才図会』ということになる。

薬局通―目からウロコが落ちる薬の本 (ハヤカワ文庫JA)

薬局通―目からウロコが落ちる薬の本 (ハヤカワ文庫JA)

藤岡真藤岡真 2008/09/09 20:26 余談ですが、「青柳」を英語では「WILLOW」と言います。

唐茄子唐茄子 2008/09/09 23:11 外郎についてのうんちく:http://odawarapr.fc2web.com/uiro.htm
によると、銀色の丸薬で、少し大粒の仁丹みたいですね。
いくら粗忽者の弥次喜多でも間違えることはなさそうです。

kensyouhankensyouhan 2008/09/10 12:38 藤岡さん、唐茄子さん、コメントありがとうございます。
実はこのガセは、世間でも広く流布しているものです。一部のういろうを売っている店では、ういろうの由来として「外見が外郎薬に似ていたから」と書いています。唐沢もどこかの店の話を鵜呑みにしてしまったのかもしれません。また、ウィキペディアの外郎薬の項目では、弥次さん喜多さんが餅と薬を間違えて食べたことになっています(こういうことがあるから、ガセの検証のときはウィキだけを根拠にしないようにしているのですが)。
このような間違いが広まってしまったのは、外郎薬についてよく知られていないからだと思います(薬のほうが先に売られていたのですが)。唐茄子さんの仰るとおり、外郎薬を実際に手に取った人はだいたい「仁丹に似ている」と言ってますから、外見がまるで似ていないことはすぐにわかると思うのですが(もしかすると、間違えるようになった理由がちゃんとあるかも知れませんが)。弥次さん喜多さんについては単純に誤読だと思いますけどね。

藤岡真藤岡真 2008/09/11 00:09  えと、自分でフォローしますね。「ういろう」のトップメーカーが「青柳ういろう」なんです。
http://www.aoyagiuirou.co.jp/

kensyouhankensyouhan 2008/09/11 07:18 コメントありがとうございます。
ああ、「青柳ういろう」というお店があるんですね。そういうことだったんですか。
ういろうはあまり食べたことが無いので知りませんでした。中学のときに名古屋出身の同級生にもらって食べたくらいですかね。おいしかったので、また食べたいとは思ってるのですが。
しかし、「青柳ういろう」も、ういろうは「透頂香(外郎薬)に外見が似ている」って紹介していますね。

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