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唐沢俊一検証blog

2008-12-17

待て、しかして希望せよ。

16:48

唐沢俊一村崎百郎『社会派くんがゆく!怒涛編』(アスペクト)P.392

 そろそろ今回のこの本のまとめが見えてきた気がする。要するに、戦後の日本が、ひたすらそれを求めて突っ走り、また、その成果をある程度出してきた“平和”が続き、国民の暮らしが総体的に豊かになり、昔とは比べ物にならない情報や知識を国民が自由に選択できるようになり、個人の人権と自由が何よりも尊重されるようになった時代(つまり現代)というのが、いい時代とは決して呼べないということである。いつ戦争があるか分からず、おしなべて国民が貧しく、個人の選択肢が限られており、個人より上位の価値観があった時代の方が、人々は心落ち着いて暮らすことができていたのである。もちろん、医学や福祉の進歩や充実の恩恵を山ほど受けているものの、対比してみて、今の時代というのは、それの代償として幸福を享受するのに値する時代か?という疑問を持たない人はおるまい。過去の時代にあって現代にないものは何か。ただひとつ、“希望”である。希望だけあれば、人間は心豊かに生きていける動物なのだ。

 読者諸君。今こそ革命を。平和と、豊かさと、グローバリズムと自由こそわれわれの敵だ。戦火にまみれる権利を取り戻そう。貧乏になることを認めよと迫ろう。情報なんかそんなにいらないと叫ぼう。不自由の楽しさを手に入れよう。そこで初めて、われわれは、希望というものを手に入れられるのである。

 前段が村上龍『希望の国のエクソダス』の「この国には何でもある。本当にいろんなものがあります。だが希望だけが無い」、後段がオルダス・ハックスリー『すばらしい新世界』の「私は不幸になる権利を求めているんです」という言葉をそれぞれ思い出させる。まあ、こんな無意味極まりないアジテーションと比べちゃ悪いけど。特に『すばらしい新世界』はディストピアものの古典だし。唐沢も当然読んでるよね?

「いつ戦争があるか分からず、おしなべて国民が貧しく、個人の選択肢が限られており、個人より上位の価値観があった時代」というのはおそらく昭和二十年代のことだろう。唐沢は『社会派くんがゆく!』最新号でも次のようなことを言っている。

唐沢 今、仕事で昭和二十年代文化の資料をいろいろ見ているんだけど、こういう国民全員が貧しかった時代が、本当にいい時代だったなって実感できるんだよ。みんなが明日に向かって希望の目を開いて頑張っているし、全員が似たような貧乏だから、他人を妬むということもない(笑)。

…ちょうど今日発売された『週刊文春』12月25日号に掲載されている小林信彦『本音を申せば』第536回には次のようなことが書かれている。

 映画の影響などで、昭和三十三年という年が美化されているのもおかしい、と今のぼくは思っている。

 当時、失業して、池袋の西の下宿にいたせいもあり、生活は暗かった。<高度成長の前の純朴で善意の人々がいる世界>というのもウソだ。津野海太郎氏は「おかしな時代」という本で<過去の美化はいやだ>と強調しているが、<東京タワーの出来た時代>の美化は、貧しかった時代だけに、いっそう気味が悪い。

 当時を知っている人にとっては過去を美化されるのは気持ち悪くてしょうがないのだろう。昭和三十三年(唐沢俊一の生まれた年でもある)当時の小林信彦失業していて、とてもじゃないが「心落ち着いて暮らすこと」など出来てはいないのだ。「個人より上位の価値観があった時代の方が、人々は心落ち着いて暮らすことができていたのである」なんてどうしてそんなウソをつくんだろう。それに戦前・戦中だって「個人より上位の価値観があった時代」になるわけだけど、とても「人々は心落ち着いて暮らすことができていた」とは思えない。ウソまでついて現代の日本を否定する理由がわからない。

 あと、「希望」っていったい何なのか。小林信彦は前出の『本音を申せば』の中で昭和三十三年当時について次のように書いている。

 ぼくの希望は、池袋駅西口にあるウナギ屋に入って、ビールとウナ丼をもらうことだった。

 この程度の希望なら現代に暮らしている自分にだってある。というよりは、むしろこの程度のささやかな希望があるからこそ人間は生きてゆけるのだと思うし、そのことは昭和三十三年でも現代でも変わりがないのではないか。別に自分からわざわざ不自由にならなくても、人間は自然と身の回りに希望を見出せるはずなのだ。太宰治『葉』の冒頭部分を引用してみる。

死のうと思っていた。

今年の正月、よそから着物一反もらった。 お年玉としてである。

着物の布地は麻であった。 鼠色の細かい縞目が織り込まれていた。

これは夏に着る着物であろう。 夏まで生きていようと思った。

夏服をもらっただけでも人間は生きていこうと思えるのである。自分だってマンガやアニメや格闘技が見たいから生きているところはあるし…、生まれてすみません。唐沢俊一の書き方だと、昔の人間は途方もなく大きな「希望」を持って生活していたかのようだが、本当にそういうことが羨ましいのだろうか。正直自分には少々気味が悪いのだが。

 それから、平和な世の中で暮らしている人間が「戦火にまみれる権利を取り戻そう」などというのは醜悪でしかない。特にアフガニスタンで殺害された伊藤和也さんを貶めていた唐沢俊一がそういうことを言うなと言いたい(詳しくは8月30日9月12日の記事を参照)。「不自由の楽しさを手に入れよう」と他人に言う前にまず自分から不自由な環境に身を置いてはどうだろうか。「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」とオタクならすぐに考えるはずなんだけどね。「間違っていたのは俺じゃない!世界の方だ」の方が唐沢俊一には合ってるけど。

社会派くんがゆく! 怒濤編

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モンテ・クリスト伯〈1〉 (岩波文庫)

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希望の国のエクソダス (文春文庫)

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すばらしい新世界 (講談社文庫)

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「後期高齢者」の生活と意見 (文春文庫)

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ALWAYS 三丁目の夕日 通常版 [DVD]

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コードギアス 反逆のルルーシュ 1 [DVD]

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通りすがっ太通りすがっ太 2008/12/17 17:32 週刊文春くくりなら、東海林さだお先生や阿川佐和子さんの口を借りて阿川弘之先生が戦中戦後の悲惨な話をたくさんしてますね。唐沢氏がどのような資料を参照しているのか気になります。

kensyouhankensyouhan 2008/12/17 18:19 コメントありがとうございます。

どんな仕事をしているんでしょうか。また時空を歪めるかと思うと頭が痛いというか腕が鳴るというか。

WOOWOO 2008/12/17 18:32 ↓朝日の書評では、こんなこと書いてたんですがねえ…
http://book.asahi.com/review/TKY200802050162.html

通りすがり通りすがり 2008/12/17 18:56 昭和二十年代といえば、山田風太郎の日記がありますが、もちろんファンを自称する唐沢先生は参照してらっしゃるんですよね? しかし、何かを褒めるためには何かを貶めずにおられんのでしょうか、この人…。

きっちょむきっちょむ 2008/12/17 21:28 すみません、
>今、日本でもロサンザルスの略称は「LA」ってことになっているけど、
>あれ、「ロス」っていう略称が“ロス疑惑”を髣髴させて悪いイメージを
>与えるってことで、観光局がキャンペーン張って呼びかけた略称なんだっ
>てね。
だけ読んで残り見ないで脊髄反射。唐沢氏は洋楽に暗いんでしょうが、
lofornia dreaming知らないってことになり、ちょっと悲しかった。つうか
大分悲しかったので脊髄反射した。

きっちょむきっちょむ 2008/12/17 21:29 連投済みません、california dreamingですね。

きっちょむきっちょむ 2008/12/17 21:34 脊髄反射済みませんでした、実はひと月も前のネタだったんですね。
町山さんはドアーズでしたか。久々にこのサイト見たのですが、やっぱり
ROMってた方がよさそう。重ね重ねごめんなさいでした。

端居端居 2008/12/17 22:59 カットされている箇所に、橘川幸夫・村松恒平の筆談集「微力の力」の、橘川氏の発言そっくりなところがあります。高度成長云々、グローバリズム云々のところ。そういえば、橘川氏は、ライター講座も主宰なさっていますねえ。唐沢氏は彼のことをどこか意識しているんでしょうか。

WOOWOO 2008/12/17 23:15 ロサン「ザ」ルスは、単行本でもそのままなのでしょうか?

O.L.H.O.L.H. 2008/12/17 23:46 資料がどうこうの前に、時代時代で苦労も希望もあったと、普通の想像力があれば分かりそうなものですが。
唐沢の脳には病的な欠陥があるのかもしれません。

bowlbowl 2008/12/18 00:18 「平和ボケしている今、敢えてこんな事言える俺かっこいい」とでも思っているのでしょうか。
こんな暴言を吐く唐沢氏が1番平和ボケしていると自覚出来ないのか・・・
貧乏だから希望云々は措いておくとして、
>平和と、豊かさと、グローバリズムと自由こそわれわれの敵だ。
 戦火にまみれる権利を取り戻そう。
これってどう言うつもりなんでしょうか?
月並みな表現ですが、同じ事を今紛争中の国の方々の前で言ってみろと言いたい。
今の平和が、どれだけ沢山の犠牲を払って得たものか解らないのでしょうか。
と言うか、「戦火にまみれ」ていたら貧乏も希望もクソも無いのに。

取り合えず私も、所謂「ALWAYS」年代を「古きよき時代」と称する事に
嫌悪に近い違和感を覚えます。

yonoyono 2008/12/18 01:58 此処ではないどこかに憧れるエトランゼタイプな人の発言ですよね

何処の時代にも希望もあれば絶望もある

という事が理解出来てないのかな?と

空沢俊一空沢俊一 2008/12/18 02:13 「LAにプエルトリカンが住んでいる」という記述も修正されているんですか?

kokada_jnetkokada_jnet 2008/12/18 11:07 唐沢が褒め称えている「過去」というのが、戦前なのか昭和20年代なのか昭和30年代なのか、さっぱりわからないのですが。

一応、彼の思考の流れを考えてみると・・。
・元来、彼は一貫して過去礼賛はしてましたね(主に、過去の漫画・小説・映画などのB級作品について「洗練された現代作品と比べると、なんとバイタリティあふれる、楽しい作品なんだろう」という具合で)。それは、「おれはこんな珍しい過去の作品知っているんぜ」という自慢から発するものだったのですが、長年やっているうちに、自分でも本気になったのでしょう。
・「個人より上位の価値観があった時代」というのは、小林よしのり的な「戦前礼賛」の影響が濃厚。まあ、60年安保までの「共産党神話」のことを言っているのかもしれませんが。
・「ただひとつ、“希望”である。希望だけあれば、人間は心豊かに生きていける動物なのだ。」というのは、近年の「昭和30年代ブーム」の陳腐な影響でしょう。
こんな愚論が出てきたのは、毎回の「社会派くん」で、様々な犯罪者の心理を「テキトーに分析」するうちに、「現代は個人の自由を尊重しすぎるせいだ」といい続けていたので、まあ、その流れで「無理矢理強弁」しているんでしょう。

呉智英の思想の影響もあるのでしょうが、呉はもちろん、こんな不用意なことはいいませんね。
ちなみに、その呉智英は、阪神大震災の際に「開発に地面が怒った」「日本は地震のおかげでようやくアジア並みになった」「難民になったようでわくわくする」と発言していた「珍左翼」津村喬を批判していましたね。

nyannnyann 2008/12/18 11:10 唐沢さんがこういう過去を美化した復古傾向をあらわにしたのは「オトナ帝国」の頃からだと思うのですけど、
クレヨンしんちゃん映画大全(双葉社)の切通理作との対談はお読みになりましたか?たぶん、今回の記事と
リンクするような対談で「進歩主義者」をやたらと敵視して「帰る家を持たない」だの「孤独」だのと、
映画と現実をごっちゃにしたような混乱した発言をしているんですが。
それと、ここでも「ゴジラ通俗映画発言」が飛び出してますねwゴジラ映画を美化するのは、
進歩主義者が過去を進化させることで「あれではいかんのです」と言ってますが。

kensyouhankensyouhan 2008/12/18 12:34 コメントありがとうございます。

>WOOさん
朝日の書評の方はまだマトモですね。まあ、しっかりした考えもなしに状況に応じて文章を書いているだけなんでしょうけど。
「ロサンザルス」は単行本でもそのままです。

>通りすがり さん
『戦中派不戦日記』を読んでいたことは「ガンダム論争」でも出てきますけど、それ以外の日記はどうでしょうか。
何かを褒めるために別の何かを貶めるのはいつものことなんですが、今回の場合は本気で過去に憧れているのかも怪しいと思います。

>きっちょむさん
いえいえ、これからも気軽にコメントしてください。

>端居さん
唐沢ならネット上でチラッと見かけただけのことも持論として展開することもやりかねません。

>O.L.H.さん
つくづく想像力がありませんよね。想像力がないと雑学も紹介できないし歴史についても語れないんですね。

>bowlさん
平和の尊さとか言うと、唐沢俊一は「いい子ぶって」とかキレるんでしょうね。でも、唐沢の話って「いい子」の考えるタテマエにも勝てないと思いますけどね。
昭和三十年代を持ち上げることには自分も違和感があります。まあ、当時を知っている人がノスタルジーとして語る分には仕方がないとも思いますが。

>yonoさん
その割には現代の日本でしか生きていけないような気が。東京から離れることも難しそう。

>空沢俊一さん
そのままありますね。ただ、プエルトリカン発言の前の方にあるゲイパレードの取材に行った話はカットされています。

>kokada_jnet さん
他の発言から推測して一応昭和二十年代だと思います。ただ、昭和二十年代が「個人より上位の価値観があった時代」だったかというと確かに疑問です。
呉智英というよりは浅羽通明かな?とは思いました。浅羽氏は最近『昭和三十年代主義』という著書を出してますから。

>nyannさん
面白そうなので今度読んでみます>クレヨンしんちゃん映画大全
唐沢俊一が『オトナ帝国』を持ち上げているのは作品やファンにとっていいことなんだろうか?と時々考えますが。

てつてつ 2008/12/19 03:32 三カ所加筆して「なんとかしちまおうっ」て感じでやっつけてますね。
さすがお手の物って感じです。
でも「日経新聞に載ってた(ってアンチのブログに書いてあった)。」
は蛇足だと思いましたが。

最後の「(笑)」は取ってくれないと、経緯を知ってしまった読者が凍えます。

kokada_jnetkokada_jnet 2008/12/19 10:20 ちなみに、「昭和30年代ブーム」のオリジネーターである宮崎駿監督は、最近のインタビューでこう答えていますね。
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0811/28/news011_4.html
>ずいぶん私は探していたのです。いつが一番良かったのか。どこで止まればよかったのか。
>止まらないことが分かりました。
>例えば昭和30年代を懐かしいという人が日本にいます。「その時期は良かったのではないか」と錯覚を起こしている人がいますが、非常に不幸な時代でした。
>なぜ不幸な時代だったかというと、うっくつした欲求不満がその後に凶暴な公害をもたらすのです。日本中の海や川を汚し、山を削りゴミだらけにしました。そんなに凶暴になることは、かつての日本にはなかったことです。懐かしいと言われている時代に、それだけの欲求不満がうずまいていたのです。実際自分の子ども時代でも、周りの友人たちに学校に行けない人とか、自活しないといけないという人たちがいました。

kensyouhankensyouhan 2008/12/20 01:02 コメントありがとうございます。

>てつさん
町山さんに批判されて慌ててうちのブログで見つけた元の記事を引いたということなんでしょうか。だとしたら、光栄だと思うべきなのかどうか。その割には「ロサンザルス」はそのままなんですが。

>kokada_jnet さん
押井守も『三丁目の夕日』を批判してましたね。
だいぶ昔に宮崎駿が「縄文時代はいい時代だった」と言っていたことを石堂淑朗が批判してましたが。

foxhangerfoxhanger 2008/12/20 11:59
たしかSFマガジンのコラムで「やたらに江戸時代を賛美する女性作家がいるけど、当時の江戸はの
衛生状態が劣悪で、どぶから発生した蚊で日本脳炎になる子供が大量にいた。そんなのを無視して
江戸や吉原が素晴らしいなんてのは笑止」みたいなことを書いていたのを覚えています。
(記憶に頼っているので曖昧です。すみません)
たぶん「女性作家」とは、故・杉浦日向子氏でしょう。
こんなことを書いていた唐沢氏はいつから、「貧乏や不自由は素晴らしい」と宗旨替えしたのでしょうか?
 それとも、単に杉浦氏を名指しせずにくさす文章を書きたかっただけだったのでしょうか。

kensyouhankensyouhan 2008/12/20 14:59 コメントありがとうございます。

『SFマガジン』のコラムは『キッチュワールド案内』にあるのでチェックしてみます。杉浦日向子のことは別のところでもクサしていましたね。

個人投資家個人投資家 2008/12/20 20:44 >貧乏になることを認めよと迫ろう。情報なんかそんなにいらないと叫ぼう。不自由の楽しさを手に入れよう。そこで初めて、われわれは、希望というものを手に入れられるのである。

 じゃあ、現在のニートや派遣社員は希望を手にしているのだろうか?

kensyouhankensyouhan 2008/12/20 20:55 コメントありがとうございます。

平和な世の中で暮らしている人間が「戦火にまみれる権利」を要求するのも、経済的に恵まれた人間が「貧乏になることを認めよ」と言うのも醜悪でしかありません。「鬼畜」以下ですね。

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