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唐沢俊一検証blog

2009-04-20

モルグというより耄碌?

18:00

 唐沢俊一キッチュワールド案内』(早川書房)P.170より。

 同じ当時の大都市でも、パリにはロンドンほど幽霊ばなしが伝わっていない。パリっ子は幽霊ばなしより、もっと現実的な、殺人や犯罪の話を好んだらしい。パリのシャプタル街に出来た恐怖劇専門の劇場、グラン・ギニョール座では、もちろん怪奇劇も時にはかかったが、主要な演目のほとんどは、生身の人間たちの繰り広げる残酷と恐怖だった。推理小説の鼻祖たるエドガー・アラン・ポーが、その『モルグ街の殺人』の舞台にパリを選んだのは、当時のロンドンであれば、不可思議な犯罪が起きればそれは幽霊の仕業、になってしまい、科学的な推理が開陳させられない、と思ったからではあるまいか。

 「あるまいか」と推測する前にもう少し調べてみてはどうか。小説の舞台を選ぶからには、それなりの根拠があるはずなのだ。「ロンドンって雰囲気じゃないからパリにしよう」とか考えるか?

 『モルグ街の殺人』の舞台がパリになった理由として考えられるのは、オーギュスト・デュパンのモデルとなった人物がパリにいた、ということである。フランソワ・ヴィドック(Eugène François Vidocq)、「世界初の私立探偵」と呼ばれる人物である。現に『モルグ街の殺人』の中でヴィドックの名前が出てくる。

たとえば、ヴィドックは推量がうまくて、根気強い男だった。しかし、考えに教養がなくて、いつも調査に熱心すぎるためにしくじっていた。彼は物をあまり近くへ持ってくるので視力を減じたのだ。一、二の点はたぶん非常にはっきり見えたかもしれん。が、そのためにどうしてもものごとを全体として見失うんだね。

ヴィドックを引き合いに出すことでデュパンの優秀さを表しているのだろう。また、パリを舞台にしているからこそ、ヴィドックの名前を出せたとも言える。

 なお、ヴィドックは他にも数多くの小説の主人公のモデルになっていて、ルコック(エミール・ガボリオ)、ジャン・バルジャンユゴー)、ヴォートラン(バルザック)、アルセーヌ・ルパンルブラン)などもヴィドックの影響を受けたキャラクターだと言われている。…ということは、名探偵と怪盗のルーツはともにヴィドックにあるわけで、なかなか興味深い。…ちゃんと調べれば、こんな風に面白いことがわかったのに。唐沢俊一の探究心の無さが残念である。

※追記 この件については、以前「トンデモない一行知識の世界OLD」で取り上げられている。

黒猫/モルグ街の殺人 (光文社古典新訳文庫)

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キッチュワールド案内(ガイド)

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WOOWOO 2009/04/20 19:18 以前、「トンデモない一行知識」さんで取り上げられていますね。
http://tondemonai2.web.fc2.com/564.html

kensyouhankensyouhan 2009/04/20 19:33 コメントありがとうございます。

追記しておきます。
まあ、カブる分にはかまわないんですけどね。相互で補完していければ。「トンデモない一行知識の世界」さんにない情報も一応出していることだし。

半農半漁人半農半漁人 2009/04/20 22:21 そもそもグラン・ギニョル座って「恐怖劇専門の劇場」じゃないんですけどね。
このサイトに演目リストが載ってますが
http://www.grandguignol.com/
半分以上はコメディです。

半農半漁人半農半漁人 2009/04/21 02:30 連投失礼します。

> 『モルグ街の殺人』の舞台がパリになった理由として考えられるのは

江戸川乱歩「類別トリック集成」には、「モルグ街の殺人」に「テーマとして示唆を与えた実際の事件」として、現実にパリで起きた密室殺人のことが紹介されています。
これも「舞台がパリになった理由」のひとつとして考えられます。

いつも読んでますいつも読んでます 2009/04/21 05:16 >当時のロンドンであれば、不可思議な犯罪が起きればそれは幽霊の仕業、になってしまい

犯罪が幽霊のせいにされた実例もないのに何を言ってるんでしょう
最も不可思議な犯罪である切り裂きジャックが幽霊のせいにされたでしょうか?
唐沢というのは本当にちょっとした論理的思考もできないのですね。
何か脳に障害があるのかもしれないと真剣に考えてしまいます。

藤岡真藤岡真 2009/04/21 12:37 >パリのシャプタル街に出来た恐怖劇専門の劇場、グラン・ギニョール座では、もちろん怪奇劇も時にはかかったが、主要な演目のほとんどは、生身の人間たちの繰り広げる残酷と恐怖だった。

 グラン・ギニョール劇場が出来たのは1897年。『モルグ街の殺人』が発表されたのは、1841年。56年後に完成される劇場の演目が、舞台をパリにした根拠と言いたいのでしょうかね。どんな因果関係なんだか。

yonoyono 2009/04/21 12:41 推理小説てパリよりロンドン、というかイギリスのイメージがあるんですけど、ホームズ氏やポワロ氏の印象が強いのでしょうかね?

   2009/04/21 13:48 >>yonoさん
怪盗紳士ルパンをお忘れなく。
舞台はフランスです。

yonoyono 2009/04/21 16:23 >怪盗紳士ルパンをお忘れなく。
舞台はフランスです。

あう、kensyouhanさんも書いてたのに気付かない(>_<)
「パリとロンドンでそのような対比は無意味」ていうツッコミが本来やるべき事だったのに
本当すみません

kokada_jnetkokada_jnet 2009/04/21 16:32 >yonoさん
横レス失礼します。ミステリ史を少し述べますと。
ポー以降の推理小説は、フランスで長編物(エミール・ガボリオなど)が書かれます。ですが、それはポーの論理性の衣鉢をあまり継がず、トリックよりもサスペンスを重視する作風でした。その後、ルパン、ファントマなどの「怪盗」ものが、フランスでは主流になります。
一方イギリスでは、ドイルのシャーロック・ホームズ物が誕生。ホームズ物の初期の長編は「謎解き」よりも、フランス・ミステリ風の「因果応報」話でしたが。短編に転じて、論理的トリックに重点がおかれ、人気を博します。それ以降、「本格推理小説」はイギリス・アメリカに本場が移った。という流れです。

kensyouhankensyouhan 2009/04/21 16:55 コメントありがとうございます。

>半農半漁人さん
グラン・ギニョールというとおっかないイメージがあったんですけどそうでもなかった、ということなんでしょうか。
>「モルグ街の殺人」に「テーマとして示唆を与えた実際の事件」
そういうことを調べてから文章を書いて欲しかったですね。

>いつも読んでます さん
この文章の前にはロンドンにおける幽霊の話がいくつか書かれていますが、「犯罪が幽霊のせいにされた実例」というのは書いてありませんね。

>藤岡さん
50年も差があるのは自分も気になってました。

>yonoさん
そもそも、「どうして『モルグ街の殺人』の舞台がロンドンじゃないのか?」という話を書いているのかが不思議です。ポーとロンドンにどんな関係があるというのか(一応ロンドンに滞在したことはあるようですが)。
「トンデモない一行知識の世界」さんのところにある2ちゃんのログでは、「唐沢はポーがイギリス人だと思ってたんじゃないか?」という疑惑が出ていましたけど。

個人投資家個人投資家 2009/04/21 21:15 >その『モルグ街の殺人』の舞台にパリを選んだのは、当時のロンドンであれば、不可思議な犯罪が起きればそれは幽霊の仕業、

ホームズは「幽霊の出番などない」と喝破しております。

そもそもデュパン自身はパリ郊外の崩れかけた古い怪しげな館に住み、昼は鎧戸を下ろしてろうそくの明かりで読書と瞑想にふけ、夜はパリの街を徘徊するという、探偵自身の方がよほど幽霊ぽいのだがなあ。

「モルグ街の殺人」が出版されたのは1841年だが、スコットランドヤードが創設されたのが1829年、刑事部ができたのが1842年なので、ロンドンには犯罪捜査に携わる組織が確立していなかったからというのが大きな理由だと考えられます。
 一方、パリ警視庁は1800年創設。もちろんヴィドックが創設者です(国家警察パリ地区犯罪捜査局初代局長)

 不可解な事件
 困惑する警察
 真犯人を鮮やかに指摘してみせる名探偵
というのがミステリーには不可欠ですからね。

 ポーの頃は、名探偵が活躍する舞台(役者)が整っていたのは、パリしかなかったということです。

kensyouhankensyouhan 2009/04/28 17:16 コメントありがとうございます。

ホームズだって「科学的な推理」をやっているんですけど、そこに思い至らないのが不思議です。

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