近頃の若い者は・その2。
というわけで、『オタクアミーゴスの逆襲』(楽工社)に収録されている「オタアミ鼎談」の紹介の続きである。今回は「その2」から「その4」、そして本文からも少し紹介することにする。
まず、「その2」は「21世紀のエロとオタク」をテーマにしているが、これはツッコミどころはさほどない。岡田斗司夫があんまりしゃべっていないせいかもしれない。ただ、興味深い発言があった。P.68より。
唐沢 昔、アニメを使ってオナニーをする連中が初めて出てきたあたりの時に、『宇宙戦艦ヤマト』で森雪が藪にやられるという話を友人たちが話していたんだよ。それじゃダメだと。藪にやられるんじゃなくて、藪から助け出されて、古代が藪にやられたんだろうと疑う。そんなに疑うんだったらと古代に体を預けると言ったら、みんなが「おお!」って言ったという経験があるんだけど(笑)。でも、本当に今はそれも教えてやらなきゃ。
『トンデモ一行知識の逆襲』(ちくま文庫)で書かれていた「古代進と森雪のセックス話」の詳細がわかったわけだ。P.162〜163より。
高校のとき、お決まりでみんなが古代進と森雪のセックス話をてんでに作って夜の作業に供していたとき、私の作ったストーリィの巧みさに全クラスが驚嘆(カトリックの男子校だった)し、ひとりが、
「カラサワ、お前、作家になれや」
と薦めた。私のコンニチの道を決めたのは、この一言、古代進と森雪のセックス話だったかも知れぬ。
…しかし、オナニーの仕方まで「若いやつはダメだ」って言うのかw
次、「その3」。テーマは「不況を生き抜くオタクたち」。P.98より。
岡田 ただ、僕らみたいに40歳、50歳を越えちゃったオタク世代というのは、いくらでも話し相手はいるわけだし、過去のストックが無限にあるわけでしょ。だって、オタアミだって新作を持ってこなくても、昔の作品がどんどんDVD化されてるし、youtubeでもニコ動でも流れてる。新規に発掘しなくても一生分楽しめて、話し相手もネットでいくらでも見つかるわけでしょ?
唐沢 来年あたりからアニメも映画も、新作と名のつくものを観るのをやめようかと思ってるんだ、俺。昔見てない映画を見るだけで残りの人生は使い果たせるから。
これは岡田・唐沢のオタク引退宣言と解釈していいんだろうか?新作をチェックしないで昔のだけ見ていればいいというのは「オタク」というより「クラシックアニメ・特撮マニア」なんじゃないの?新作を見たくないというのならそれはそれでかまわないけど、現実の流れに背を向けることは「オタク」として大事なものを失ってしまうということではないだろうか?…まあ、唐沢俊一はだいぶ前から新作を全然チェックしていないんだけど。岡田斗司夫なんかオタアミの3人の中で唯一今でも新作アニメをチェックしている眠田直に向かって「なんで見るの?」とまで言ってるし。「見るほうがおかしい」かのような言い草だ。
P.98〜99より。
岡田 僕も最初の『ウルトラマン』を全部見るというのがこの1週間の楽しみで。
昔の作品も今見たら見え方が全然違う。『ウルトラマン』が今こんなに面白く見えるとはまったく思ってなくて。
細かい設定とか事情とかもすごくわかってくるし、「ここ、こんなに頑張ってたんだ」とか「『ウルトラマン』って、思ったよりチャレンジした作品だったんだなあ」とか。「よくやったよお前たち!」みたいな思いがどんどん出てきて楽しいんだけどなあ。
こんな具合に『ウルトラマン』にハマっている岡田斗司夫は、唐沢俊一が「週刊昭和」で書いた『ウルトラマン』についての文章をどういう風に読んだのだろうか(詳しくは3月17日の記事を参照)。岡田氏はかつて『史上最強のオタク座談会 回収』(音楽専科社)で「平成ウルトラマン見るほど貧乏してない」とか言ってたから、最初の『ウルトラマン』は別格ということなんだろうね、きっと。
P.100より。
岡田 『ガンダム00』の1話と2話見たんだけどさ、本当に何が面白いのかわからないのはともかくとして、「こんなものを面白いと言っているやつは嫌いだ!」というくらいイヤなんだよね(笑)。
眠田 その気持ちはわかる。
岡田 もうアニメというのは特殊なものじゃないでしょ。昔だったらオタクだから、SF好きだからアニメを見るのが当たり前だったし、実際に『ガンダム』やロボットものを見たんだけど、今はもうロボットものだから面白いとも限らないし。
…いったい何をヒステリー起こしているんだろうなあ。自分には眠田氏と違って岡田氏の気持ちがさっぱりわからない。それに昔だって「ロボットものだから面白い」わけじゃなかったと思うけれど。「ロボットもの」が好きかどうかが問題なのであって(自分は「ロボットもの」のアニメは最大限チェックするようにしているけど)。
ここでいったん「オタアミ鼎談」を離れて、『オタクアミーゴスの逆襲』本文から気になった部分を紹介しておく。まず、伊勢田勝行監督の作品について触れた唐沢俊一の発言。P.89より。
まあ、『りぼん』に投稿するようなセンスだからさ。
唐沢俊一は1970年代から80年代にかけて『りぼん』が男のまんがファンに強い影響力を持っていたことを知らないのだろうか?陸奥A子とか清原なつのとか知らないのかな。唐沢が若い時分にブームが起こっているからハマらないのはむしろ不思議なんだけど(たとえば、とり・みきは見事にハマっている)。最近でも矢沢あいや谷川史子といった実力派作家を輩出しているし。…少女マンガもダメかあ。
次、P.142とP.144より、はりけ〜んず前田について触れた岡田斗司夫の発言。
これも送ってもらったのに悪いんだけど、何が面白いのか理解しがたい。というのは、これに出てくるオタク像というのが、なんかもうただのアニメファンなんですよね。いや、ただのアニメファンだからって悪かないよ。最初は声優で野球チームを作るというネタで、たしかに萌え系のアニメはすごい好きで詳しいんですよ。と学会の山本会長とかと、話がすごい合うんじゃないかなあ。
最近、僕もダイエット系とかの役割でテレビに出るじゃないですか。そうすると芸人さんとかが「僕もオタクなんです!」と言うんだけど、だいたい2つのうちどっちか。1つはただ単にマンガやアニメが好きな、元気いっぱいの体育会系の元ヤンキー、品川庄司の品川みたいなやつ。もしくはこっちの、普通のアニメ好きかのどっちかなんですよ。
この芸人さんもガンダム講談の世代の人たちですよね。あのガンダム講談の人らと話して不思議に思うのは「ジオンが好き=濃い」と思ってるでしょ。あれがよくわからなくて。ガンダムが好きだったらジオンが好きに違いない。そしてそれは自らが濃いことに違いないという思考がよくわからないんだよなあ。まあいいや。
なんだろうなあ、この「俺様基準」のオンパレードは。「アニメファン」と「オタク」はどう違うのか、萌え系のアニメが好きだと「オタク」として問題があるのか、「ジオンが好き=濃い」と思っているガノタがどれくらいいるのか、疑問ばかりだ。どういうオタクなら納得するんだろう?そのくせ、自分は「体育会系の元ヤンキー」とか雑なことを言ってるし。「体育会系」と「ヤンキー」ってまるで別だろう。
では「オタアミ鼎談」に戻る。「その4」のテーマは「現代ネット文化とオタク」である。P.128〜130より。
岡田 最近は本当、他の濃いオタクの人の動向見るだけでも楽しいもん。たとえば堺三保とロト(氷川竜介)さんと唐沢さんの日記を読んで追体験するだけで、自分の中のオタク心ってかなり満足しちゃう(笑)。
前は作品を直接見てたじゃない?今はその作品を見ている誰かのブログを見て、そこでよっぽどのことがあったら、一応念のためにチェックすればもう大丈夫になっちゃった(笑)。
(前略)まったく同じように、いまや岡野キャプテンとかロトさんとか唐沢さんとか山本さんとかの日記を見て、「そうなのかそうなのか」って情報で頭がいっぱいになって。たまーにyoutubeとかニコニコ動画でそれを見たり、映画館に行って「ああ、○○さんが試写で言ってた通り、本当にこの作品はこうなんだ」というような、情報の追体験ばっかになっちゃった。ただ、僕は自分の行動に疑問を持ちながらやってるんだけど、もっと下の世代になるとこれが一番ムダがない方法と思ってるんだね。
眠田さんとか唐沢さんの「元に当たる」という考え方はたぶん、ムダがいっぱいあるように見えちゃうんだよ。一番いいのはネットでオタ系のニュースサイトをバーッと見ること。しかも、意見や感想を自分で考えるのも効率が悪い。賛成とか反対とかの意見をダーッと見ていって、祭りが起こってるのを見たら、「ああ、これに対してはこういう態度をとっておけばいいんだな」という風に解釈しちゃう。今のオタクの人たち、日本人の7割か8割もそうなんだけど、損がとことん嫌いだから。アニメをどんどん見るのは大変なんだけど、たまに当たりを掴むときの喜びがいいって眠田先生が言ったんだけれども、それは99損しても1の喜びが100を超えることになるということになる。けれども、彼らにしてみればその99の損というのが考えられない。100のうち1か2か損するのがもうイヤなの。
…ここまで恥を知らないということもなかなかないんじゃないだろうか。自分だって他人のブログを読むだけで満足しているくせに「俺はわかってやってるからいいけど、若いやつらはわかってないからダメ!」って、どっちにしたって「ちゃんと作品を見ずに物を言ってる」「効率を優先して損を嫌がっている」ことには変わりがない。それに岡田斗司夫は昔から作品を見ないで好き勝手なことを言ってるじゃないか。『史上最強のオタク座談会』では「俺くらいになれば見ないでも文句言える」って言ってたし、『オタク論』では読んでもいないのに『テヅカ・イズ・デッド』についてあれこれ言っていた。つまり、ネットがあろうとなかろうと作品を見る人は見るし見ない人は見ない、それだけの話である。少なくとも岡田斗司夫に若い人を批判する資格はない。
それに、これは「唐沢俊一検証blog」をやっている人間として言わせてもらいたいのだが、唐沢俊一に「「元に当たる」という考え方」があったら、こんなブログをやる必要なんてまったくなかった。唐沢の文章と原典を比較したらまるで違ってたということが、いったい何回あっただろうか。あんまり適当なことを言わないでほしい。
P.132〜133より。
唐沢 (前略)昔は本当にナビゲーターとして、たとえば僕たちの世代だと怪獣映画を見るなら大伴昌司であるとか森卓也であるとか石上三登志であるとかいう人がいたんだけど、そういう人がいなくなっちゃった、あるいはそういう人たちのアンテナが鈍っちゃったからわれわれが代わりに、とやった部分もあるんだけれど。今はもはやアンテナという概念もなくて、とにかく答えだけくれみたいなね。だいたいわかるつもりだったんだよね、私も。ただ、やおいとか腐女子のナビゲーターというのがいて、「唐沢さんは腐女子の心がわかってませんね」と、全然違う方向に理解してたのかみたいなことを言われて。
岡田 その意味では、自分がナビゲーターであるという自信も自覚も、もうほんの欠片もないですね。もうオタク以外のジャンルでもないから、全然ブログ書けなくなっちゃいましたよ。何かみんなに教えようとか、これを伝えようというものがないっすよ。
先人に対しては「アンテナが鈍った」と言いながら、自分たちが流行についていけなくなったことについては「答えだけくれ」と周囲のせいにしている。なんというダブスタ。…いや、あなた方のアンテナが鈍っただけだと思うのだが。もともとのアンテナの性能もどんなものだったのかも気になるところだけれど。
それにしても、この人たちが「オタクのナビゲーター」たらんとして行動していたのは興味深いし、だからこそ今日のような事態になっているとも思われる。 次回は「オタアミ鼎談」最後に残った「その5」を紹介するが、『オタクアミーゴスの逆襲』という本そのものも「オタクのナビゲーター」について考えながらまとめてみたいと思う。
(つづく)
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