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唐沢俊一検証blog

2010-02-02

シー・アメリー・プレイ。

12:37

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 『熱写ボーイ』3月号掲載の唐沢俊一『世界ヘンタイ人列伝』第12回はアメリ・エリー ならず者のアイドルである。アメリ・エリー(Amélie Élie )とはあまり聞かない名前だが、19世紀末から20世紀初頭のパリの有名な娼婦で、彼女をめぐってチンピラが争い、ついには傷害事件に発展したということが紹介されている。いわゆる「痴情のもつれ」というやつなのだろうが、これを「ヘンタイ」に入れていいものなのだろうか。

 もともと、映画というのはホンの百年前までストーリィも何もなく、例えば、女が浮気した彼氏を嫉妬でブチ殺した、というような事件が起これば、それっとばかりにその現場に飛んでいって、役者にその現場で殺しの様子を再現させ、あとでさらに扇情的なセリフを字幕でつけ、速攻で上映して大衆の好奇心というニーズに応えるものだった。映画を今更また、そのような野蛮な時代のものに返すというのはいただけないが、しかし時にはこのような、原点に返った悪趣味があってもいいような気はしている。

 映画そのものが100年ちょっとしか歴史がないし、実際の事件をもとにした映画は今でもたくさん作られている。『コンクリート』の公開をめぐって騒動になったのはつい最近のことだ。なお、この文章を読んで2008年11月12日の記事のことを思い出したのでリンクしておく。「朝日新聞」ヘンな書評シリーズに追加。

 それから、この文章で気になるのは「映画を今更また」以下の部分で、かつて「最近の日本の漫画は洗練されすぎている」と貸本漫画やアジアの漫画を持ち上げていた人としてはどうなのか?と思ってしまう。唐沢俊一にとって「悪趣味」ってどの程度の存在なんだろうか。

 こういう、犯罪のメディア化の代表と言われているのが、世紀が20世紀と変わったばかりの1902年、パリで起った“カスク・ドール事件”と呼ばれる事件だった。

 カスク・ドールとは“金髪”を意味するフランス語である。

 アメリ・エリーのあだ名が「カスク・ドール」だったわけだが、カスク・ドール(Casque d'or )は「黄金の兜」という意味である。アメリ・エリーは金髪を独特の形に結い上げていたことから「カスク・ドール」と呼ばれていたのであって、単に「金髪」としてはいけない。

この源氏名を持つパリの有名娼婦をめぐって巻き起ったヤクザ同士の争(原文ママ)であって、この事件をめぐってはシャンソンが作られ、芝居が作られ、阿部定のときと同じように本人が主演すると報じられると、世間に一大センセーションが巻き起り、当時の警視総監の名で上演禁止の措置がとられる騒ぎになった。彼女は自叙伝を出し、新聞のインタビューに応じ、一躍パリの大人気ものになった。

 今回のコラムで一番不思議なのは、カスク・ドール事件」が後に映画化されたことを唐沢俊一がスルーしていることジャック・ベッケル監督、シモーヌ・シニョレ主演の肉体の冠(原題はまさに“Casque d'or ”)である。「犯罪のメディア化」というならこの映画にも触れとかないと(ただし映画には事実と異なる部分がある)。ちなみに、『ぼくの採点表機戞淵肇僉璽坤廛譽后砲双葉十三郎は『肉体の冠』に☆4つという高評価を与えつつ、このように書いている。同書P.651より。

 お客が来そうな題名をつけるのはやむを得ないが「肉体の冠」とは何であるか。駄洒落のセンスで考えてみても全然わからん。折角のベッケル作品に傷をつけられたようで、ファンとしてのぼくは義憤を禁じ得ない。

 うーん、『肉体の悪魔』と公開日が近かったからかなあ(『悪魔』=1952年11月、『冠』=1953年2月)。

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 この後、アパッシュの説明になる。『ジャパッシュ』って「ジャパン」の「アパッシュ」だったのか。じゃあ『日本アパッチ族』ってこと?

 まあ、社会のクズみたいな連中ではあるが、19世紀の名残である堅苦しい上流社会に生きる人々にとり、伝統にとらわれない彼らの姿は、一種のヒーローに映ったのだろう。

 「社会のクズ」という言葉を目にして「そんなこと言っていいのかなあ」と一瞬固まってしまったが、まあ「鬼畜」なんだからしょうがないか。しかし、アパッシュをもてはやしたのは上流社会の人間ではなくて一般庶民の方ではないかと思うけど。

 さて、問題のカスク・ドールことアメリー・エリーは、1878年、この裏通りの喧騒の中で産湯を使ってからこっち、外の世界の空気を吸ったことがない、ちゃきちゃきのゾーヌっ子であった。

 フランス版ウィキペディアでは、アメリ・エリーは1879年生まれで、オルレアンで生まれた後パリに移ってきたということになっている。また、唐沢はアメリ・エリーの恋人である「マンダ」の本名を「マリウス・プレニュール」としているが、ウィキペディアや下記にリンクしてある動画では「ジョセフ・プレニュール」となっている。

 しかし、諸行無常の花の色、こんな幸せな状態は長く続かない。

 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす」を略して「諸行無常の花の色」としていいものか。

 そして、自分をめぐって争った男たちが流刑にされたにもかかわらず、アメリ・エリーがその後平穏無事な一生を送ったことについて、唐沢俊一はこのように書いている。

まあ、女とはこういうものである。

 ンモー、唐沢先生ったら、本当にドンファンなんだから。


 いろいろ指摘してきたが、今回のネタはそんなに悪くないと思う。これからもマイナーなネタを掘り起こす方向でやっていけばいいんじゃないかなあ。まあ、梨本勝」「丸山(美和)明宏」みたいな単純ミスはやってほしくないけれど。「アメリ・エリー」のこともアメリ・マリー」ってやってるし。ついでに実際のアメリ・エリーを紹介しておこうか。

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…現実は厳しい。


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後ろでクルマが普通に走っているのを見ると笑ってしまう。

ピンク・フロイドの道

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ぼくの採点表―西洋シネマ大系 (1)

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ジャパッシュ (ぶんか社コミック文庫)

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日本アパッチ族 (光文社文庫)

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yonocoyonoco 2010/02/02 16:09 この文中では
ヘンタイ=性的な犯罪
悪趣味=規制が緩い映画
みたいなニュアンスなんですかね?

事件についてはわからないのですが、唐沢さんの女性感てろぶろっくとかわりませんなあと思います

民主物語民主物語 2010/02/02 17:44 民主党窮地の鐘の声、諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色、裏権力必衰の理を顕す。
おごれる小沢も久しからず、政権交代に酔った真夏の夢の如し。
猛き者も、遂には亡びぬ。

丸亭玄人丸亭玄人 2010/02/03 02:29 >映画というのはホンの百年前までストーリィも何もなく
またまたご冗談を。ストーリー性を持った初めてのアメリカ映画とされるエドウィン・S・ポーターの「大列車強盗」は100年どころか107年前の作品ですぜ。
http://www.youtube.com/watch?v=Bc7wWOmEGGY


>犯罪のメディア化の代表と言われているのが
知名度からいえば「赤い納屋の殺人」の方が「代表」と呼ぶにふさわしいのではないかと。
http://en.wikipedia.org/wiki/Red_Barn_Murder#cite_note-22
http://www5b.biglobe.ne.jp/~madison/murder/text/corder.html


>「カスク・ドール事件」が後に映画化されたことを唐沢俊一がスルーしていること
>「犯罪のメディア化」というならこの映画にも触れとかないと
ファントマの生みの親のひとり、マルセル・アランがのちに獄中のカスク・ドールに極秘インタビューした逸話(フレイドン・ホヴェイダ「推理小説の歴史はアルキメデスに始まる」69頁)にも触れて頂きたかったですな、物知り先生。

nyannnyann 2010/02/03 11:03 >映画というのはホンの百年前までストーリィも何もなく

自分もこれに引っかかったんですけど、リュミエール兄弟が既にストーリーのある映画作ってなかったでしたっけ?
100年前きっちりに限定するなら丸亭玄人さんが仰ってる『大列車強盗』の前年にはジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』もあったわけだし。
何か唐沢氏の話を鵜呑みにしてると、100年前の人間は映画というメディアを手に入れたけど何をやっていいかわからない原始人みたいに
聞こえるし、劇映画の誕生は特定の一部の人間がある日突然発明したみたいな印象を受けるけど、ストーリー構成を持つ劇映画を作ろうというのは
映画発明以来の命題みたいなものだったんじゃなかったでしたっけ?

tochicatochica 2010/02/04 06:00 19世紀の段階で、すでにリュミエール社はキリスト受難劇、メリエスは『ドレフュス事件』のような「再現」ものを作っていますね。それらを「劇映画」と呼ぶかどうかは別として、物語性は間違いなく備えています(ジョルジュ・サドゥールは『世界映画史』で『ドレフュス』を「最初の劇映画大作」と呼んでいます)。1901年にはフェルディナン・ザッカの『ある犯罪の物語』なども作られている。

唐沢氏が書いているような三面記事の再現というのも映画草創期の一つのジャンルでしたが、そもそもこれ自体に物語性があったわけで、「扇情的なセリフ」とか「速攻で上映」といった要素はストーリーがないと決めつける理由にはなりません。

わざわざ「女が浮気した彼氏を嫉妬でブチ殺した」などと汚い言葉で書いて「野蛮」な印象を与えようとしているようですが、例えばフランソワ・トリュフォーの『柔らかい肌』なども三面記事にヒントを得て、唐沢氏が書いたのと同じストーリーを映画にしたものです。

tochicatochica 2010/02/04 06:02 ×フェルディナン・ザッカ
○フェルディナン・ゼッカ
でした。

丸亭玄人丸亭玄人 2010/02/04 19:08 >唐沢氏が書いているような三面記事の再現というのも映画草創期の一つのジャンルでしたが、そもそもこれ自体に物語性があったわけで

女が浮気した彼氏を嫉妬でブチ殺す。これだけでひとつのストーリーを構成してますよね。仮に映像化されたのが殺人シーンだけだとしても、観客はそのシーンを通して背後にある物語を再認識するわけですから、物語性がまったくないとまでは言い切れないと思います。そもそも「ストーリィも何もな」い映画にどうやってセリフをつければいいのでしょうか? 何でも言えばいいってもんじゃないでしょ(笑

もうひとつ氏の記述で引っかかるのが

>あとでさらに扇情的なセリフを字幕でつけ

という部分。草創期の映画は基本的に無字幕のはずです。「初めてデジタルビデオカメラを買ったジジイが撮影した孫の映像」あるいは「新歓コンパの一発芸」みたいなものばかりですから。英語版ウィキペディアでも、字幕が挿入されるようになるのは、映画がある程度の尺数を持つようになってからだと説明されています。(すいません、またリンクです)

http://en.wikipedia.org/wiki/Intertitle

こんなこと、映画史の本を調べるまでもなく、YouTube で現物にあたればすぐ分かることなんですがね。この人、YouTube のナントカいう本を書いてませんでしたっけ?

tochicatochica 2010/02/04 21:16 >草創期の映画は基本的に無字幕

ジョージ・アルバート・スミスが1900年代の初頭に字幕のある映画(『ジャックの建てた家』や『ドロシーの夢』)を作ってますが、これらは説明の字幕で、会話の字幕がある映画というとポーターの『前科者』(1904)が最初といわれていますね。ただし、wikiにあるmainstayになったのはグリフィスの登場するあたりからで、1908年頃からということになると思います。

唐沢氏がいうような再現モノの映画は例えばフランク・S・モッターショーなどの作っていた作品がこれに相当すると思いますが、これは1905年前後の製作で、字幕が挿入されていたとしてもそれで観客を呼ぶような性格のものではなかったでしょうね。

tochicatochica 2010/02/04 23:21 何度もすいません。今回の内容とは関係ありませんが、恐縮ながら映画つながりでこちらに書かせてください。さっき読んだ1月26日の裏モノ日記でこんな記述がありました。

>発掘したビデオの中からベータの『ジーン・ケリー・スペシャル』を見る。
>1982年に(CMで『首都消失』試写ご招待、などをやっている)札幌で
>録ったもの。ジーン・ケリーの全米俳優協会賞受賞式の模様を記録した番組
>だが、1982年にはフレッド・アステアもジェームズ・スチュアートも、
>グレゴリー・ハインズもドナルド・オコナーもシド・チャリシーも(ハインズ
>以外ヨボついてはいたが)みんな生きていたのだなあ、と感慨深し。
>いや、それよりもCMの懐かしさにひっくり返る。

この番組は僕もTVK放映版を録画して大切に保管しているのですが、グレゴリー・ハインズが「新しいステップを思いついたと喜んでも、実はジーンのステップを盗んでいたりする」とケリーを賞賛すると、ニコラス・ブラザースが登場して「グレゴリー、気にするな。彼も俺達のステップを盗んでいる」とオチを作るところなど楽しい場面満載なのですが、「ハインズ以外ヨボついていた」「それよりもCMの懐かしさ」とはガックリします。

しかも例によって間違いが多い。そもそもこれは「全米俳優協会賞」ではなく、「AFI(全米映画協会)生涯功労賞」です(AFIの生涯功労賞授賞式は映画ファンにお馴染みでしょう)それに受賞したのは1982年ではなく1985年。その上、『首都消失』が公開されたのは1982年ではなく1987年です。1985年の授賞式を1987年に放映していたということ。間違い探しを出題されているような気になります。

元エロ本ライター 元エロ本ライター  2010/02/05 04:32 twitterで、鶴岡法斎が唐沢を師匠に選んだことを公開懺悔してますよ。

kensyouhankensyouhan 2010/02/05 06:30 コメントありがとうございます。

>yonocoさん
これこそ「ただしイケメンに限る」という話のような気が>女性論

>民主物語さん
スパムかな?と思ったのですが、コメントが本文の内容と関係が無いわけではないので放置しておきます。

>丸亭玄人さん
「カスクドール」の話をどこから持ってきたのかが気になっていて「昔の雑誌がネタ元」か「フランス語のサイトがネタ元」かのどっちかだと思います(一応内容がよく似たサイトがあったので)。いずれにしても、ひとつのネタ元を参考にした結果、『肉体の冠』をスルーしてしまったのではないかと。

>nyannさん
雑なのはいつものこととはいえ。

>tochicaさん
問題の「裏モノ日記」は2009年1月26日のものですね。
http://www.tobunken.com/diary/diary20090126102100.html
当時も2ちゃんねる唐沢スレでは突っ込まれまくってました。

>元エロ本ライターさん
まあ、いろいろ大変なんだろうなあと。それにしても唐沢俊一をめぐる人々の動きのめまぐるしさときたら。