裏モノの中に修行あり。
臨終トンデモ拳ラサワカ出現→ガセガセのパクパクだ!
唐沢俊一『裏モノの神様』(単行本版=イースト・プレス、文庫版=幻冬舎)の巻頭にある「裏者の十戒」が面白いので紹介してみる。
汝、良識にとらわれるなかれ。
悪趣味、ノゾキ屋と言われることこそ裏者の栄誉。
汝、手間隙を惜しむなかれ。
手に入れるまでがやっかいなのが裏情報なり。
汝、むやみに人の言うことに従うなかれ。
人の行く道の逆方向にネタはあり。
汝、真摯(マジ)にものを考えるなかれ。
真摯は視野狭窄の換言にすぎず。
汝、性急に人を称賛するなかれ。
今日の称賛は明日の罵倒。
汝、世を憂えるなかれ。
悪い世の中こそ裏ネタの花盛り。
汝、正義を信奉するなかれ。
正義はたいてい、面白くないものなればなり。
汝、外見を軽んじるなかれ。
人間の九割は外見で見分けがつくものなり。
汝、ウソを恐れるなかれ。
出来のいいウソは出来の悪い真実に勝れり。
汝、自分の手を汚すなかれ。
裏者は観察者なり。自身裏モノになるは不可なり。
「だからか!」というのと「守れてないじゃん!」というのが入り混じっている。
続いて、単行本版『裏モノの神様』にのみ収録されている「裏者修行日記」から興味深い部分をピックアップしていく。まずは1998年8月20日分より。同書P.198〜199。
仕事やらずに逃げ出して、渋谷東急プラザの2階、喫茶店。送ってもらった柳下毅一郎氏の鬼畜映画エッセイ『愛は死より冷たい』持って。前書きの「僕にとって、映画は青春だった。そして青春とはひたすらつまらないものだった。他に楽しいことがあれば、年に三百本も四百本も映画を観ているわけがない」という文句に大いなる共感を得て、一冊、その喫茶店で読み通してしまったが、書き込まれている材料は無茶苦茶いいくせに、文章が相変わらず下手なので、読後の満足感はイマイチ。いや、これは柳下さんの本質というのが本来、こういう悪趣味系じゃなく、実際のところもっと芸術的なものの方に向いているんじゃないかなあ、と俺が思っているからなんだが。露悪趣味で名乗っている「特殊翻訳家」の他に、もうひとつペンネームを持つべきなんじゃないか?
本の後半全部をしめる「映画評論家緊張日記」は、いっぱい変な映画ばかり観ていて、うらやましいことしきり。『もののけ姫』に「煮詰まったのなら、そこをなんとか絵でごまかすのが映画作家の良心。人間としての良心は別」と言い切るところなどクールでカッコいい。(後略)
この記述に柳下氏が激怒したことについては、「唐沢俊一まとめwiki」を参照。まあ、唐沢俊一に「文章が相変わらず下手」とか言われたくない、というのはよくわかる。どこが下手なのか具体的な指摘もないわけだし、まさに「お前が言うな!」ってやつだし。
面白いことに、唐沢は東浩紀氏にも「文章が下手」と言っている(2009年2月5日の記事を参照)。思うに、唐沢には自分の縄張りを荒らそうとしている相手に対してどうにかケチをつけたいときに相手の文章を批判する癖があるのではないか。柳下氏に「悪趣味」「鬼畜」というフレーズを使っているあたりわかりやすい。もちろん、柳下氏にも東氏にも唐沢の縄張りを荒らすつもりなどなかったわけだけど。なお、柳下氏に関しては2010年7月27日の記事も参照。
次に8月29日の日記から、名古屋の「鳥久」で食事をしたときの話。P.202より。
うどんをおかずにご飯を食べるなんて田舎モンのやること、というのが持論だが、まあいいよな、田舎で食べるんだから。郷に入っては郷に従え。
名古屋は田舎と申されるか、唐沢どの。
9月16日の日記。P.212より。
某パティオで、『新耳袋』の中の「くだんのはは」についての話題が出る。
(中略)
『新耳袋』の著者たち(木原浩勝・中山市朗)は基礎教養がなくていけない。だから呉智英なんかに罵倒される。
唐沢俊一はのちに木原氏と一緒にトークライブをやっている(2011年12月27日の記事を参照)。ひとの悪口をむやみに言うものではないし、先に紹介した柳下毅一郎の文章にケチをつけた話といい、唐沢のブーメラン投げの絶妙さには感心するしかない。「基礎教養」ねえ…。なお、この「くだんのはは」の件(おやおや)については「トンデモない一行知識の世界」を参照。
ちなみに、「裏者修行日記」には日記ごとに「今月の狂訓」というコメントがついているのだが、9月16日の「狂訓」はこんな感じ。
細かい描写の正確さにこだわるヤツってのも多いが、たいてい、そういうのは文学オンチなんだよな。
さすが、前代未聞の『ライ麦畑でつかまえて』の紹介文を書いた文学通の言うことは違う。「細かい描写の正確さ」にこだわっていないどころか、作者と主人公の名前にもこだわっていない。
もうひとつ、9月18日の「今日の狂訓」。P.214より。
一般には俗説こそ真実。つまらぬ真実など、どこかに一行、記録がありゃそれでいい。
…だから、ガセビアを大量生産するんだよ。
このブログで何度も紹介している『トンデモ一行知識の世界』(ちくま文庫)P.33も。
しかし、間違いを間違いだからといって無下に排斥するのは人間の文化を貧しいものにしてしまう。事実、などというのは世界中の人間のうちの数パーセントが知っていればいいことではないか?
唐沢は「つぶやき日記」8月3日分で、
雑学は広く、浅く、アヤシゲだからこそ、あらゆる事象への興味を誘う(以下略)
と書いているが、当の本人はアヤシゲなものに誘われてそのまま間違った道へと足を踏み入れて帰れなくなってしまったのではないか。よい子のみんなはマネしないでね。
9月20日の日記。P.215より。
三十越えたら自分の人生の残り時間とスリ合わせてやりたいこと、やれることをキチンと明確に規定して目標に置き、そこに邁進することに充実感を覚えるのが男というもの。
カッコいいなあ。唐沢俊一は30歳の時点で50歳を過ぎたらライターから演劇に軸足を移すことを決めていたのだろうか。
9月22日の日記には、ロフトプラスワンのイベントで筒井康隆の『バブリング創世記』を著作権者に無断で朗読したときの模様が書かれているが、この件については藤岡真さんのブログを参照されたい。なお、唐沢俊一の小説を筒井康隆風と評している中笈木六氏は沖縄在住のライトノベル作家である神野オキナ氏の別名である。自分も『十字架を抱いた渡り鳥』を読んだ時に「なんだか筒井さんっぽい」と思ったから、唐沢も影響は受けているのだろう。まあ、影響を受けたから面白い話が書けるかどうかはこれはまた別の話で、「センスのない人の書いた筒井康隆風の小説」というものは実に悲惨極まりない代物になりそうではある(あくまで一般論としての話)。以下は余談だが、唐沢なをき『電脳なをさん』VOL.181で筒井康隆のマンガがネタにされていて笑ってしまった(『愛憎版 愛の巻』に収録)。やっぱり本物の唐沢先生はいい。ともあれ、『ビアンカ・オーバースタディ』発売おめでとうございます。
ラスト。9月27日の日記。P.217より。
パソコン通信ネットでの知人の作家・S氏から「推理作家協会に入りませんか」というメールをいただく。入れば文藝家名鑑にも載るし、国保もききますよ、との丁重なお誘い。昔、推理作家協会とSF作家クラブに席を置く(原文ママ)のが夢だったなあ、と、ちょっと青い感慨にひたる(笑)。
まあ、残念ながら今の僕はこういうところに席を置く(原文ママ)ことで自分のアイデンティティを確保することに盛大に疑問を持っている。S氏には悪いが、日本漫画家協会に入っているんで国保はちゃんときくので、今のところ入会する必要がありません、と断りの返事を書く。この漫画家協会だって、本当は正式入会しているのは女房で、私は家族会員。昔、入会希望を出したとき、著作の描写を問題にされて、入会留保となり、その会誌に「今月の入会留保者」と名前が出て、みんなに「何か悪いことしたんですか」とウワサされて、しばらく話のネタに不自由しなかった。それ以来、協会なるところに入ることには抵抗がある……というわけでもないんだが。
入っておけばいいじゃん、と思うのは素人考えなのだろうか。唐沢俊一ってもともとそんな無頼な人でもないのだから。「と学会」にいることで「自分のアイデンティティを確保する」のはアリなのだろうか。奥さんとは現在別居しているわけだけど保険はどうなっているのか心配だな…、と思っていたら、「裏モノ日記」2009年10月2日に奥さんから新しい保険証を受け取ったという記述があった。どうやら組合を変えたようだ。
なお、『裏モノの神様』文庫版には「裏者修行日記」の代わりに「新・裏者修行日記」が収録されているが、単行本に比べるとトンガリ具合が薄れているので、こちらは紹介しない。
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