光る鬱。
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今日発売の『週刊文春』9月20日号は佐藤健に超低空お姫様だっこされる前田敦子の写真が衝撃的だが、P.152〜154に「サブカル男はなぜウツになるのか?」という特集記事が掲載されている。タイトルを見てわかるように、吉田豪さんの『サブカル・スーパースター鬱伝』(徳間書店)の内容を紹介しつつ、著者の吉田さんと本の中で登場した唐沢俊一、枡野浩一、みうらじゅん、の各氏に追加取材を行っている。今回は記事内の唐沢俊一の発言について取り上げる。『週刊文春』P.153より。
唐沢俊一氏(ライター)の場合は「普通の人」にとっては一見なんでもないような状況が事態を悪化させた。コトの始まりは心不全を発症し、「心臓が七分の一しか動いていない」と診断されたこと。心臓の危機は脱したが、処方された薬が元で気分が落ち込むようになった。だがそれに拍車をかけたのは、母親との半同居だという。
「サブカルの仕事は、日常性から逸脱した異常さを求められたり、自分を一般社会とは常識の異なる異端の淵に追い込んで、それを商品にしているものなんです。資料の死体ビデオを見ながら飯食ったりしてきたわけです。ところが母親と朝夕一緒に飯を食うときは常識的な社会人に戻らないといけない。親戚の子供が進学したとか誰が病気になったとかそういう話に合わせないといけない。そのスイッチの切り替えが非常に辛いんですよ」
テレビ番組「トリビアの泉」でスーパーバイザーを務めたことで唐沢氏の知名度は急上昇。講演で全国を飛び回る日々が始まった。体力的なしんどさもさることながら、
「トリビア色の強い仕事ばかり依頼されて、他の創作が出来なくなった時期もあった。結局期待されているのは『へぇ〜』と言わせる話で、またこれかよ、と愕然としましたね」
この辺の話は本でも語っていたので特に目新しいものではない(インタビューの詳しい内容は2011年2月10日の記事を参照)。
唐沢俊一が「心臓が七分の一しか動いていない」と診断されたのは2009年6月。それでジュンク堂でのトークセッションは中止になったわけで。一方、唐沢と御母上が半同居を始めたのは2004年3月なので(「裏モノ日記」2004年3月8日)、5年間は半同居が平気だったことになる。心臓が弱くなってからキツくなった、ということだろうか。…それにしても、一般論で考えたら母親との半同居よりも奥さんとの別居の方がダメージがデカいのではないだろうか。枡野さんのケースでもそれはわかるし、リリー・フランキーもお母さんと同居していたけど、そのせいで別におかしくなっていないもの。サブカルが「異常」「異端」だからなんて言い募るまでもなく、実にわかりやすい理由で「鬱」になったのではないか。
それに、唐沢俊一が「トリビア色の強い仕事」をしていたのは2004年〜2005年あたりがピークで、2009年の時点ではトリビア系の仕事はそんなにしていない。『タカトシの時間ですよ!』も「またこれかよ」と思っているのだろうか。
この後は本に出ていない話になる。P.153〜154より。
サブカル業界の衰え様も密接な関係があるという。単に「書店にサブカルコーナーがなくなった」というだけではなく、求められ方の問題だ。
「サブカルはオタク文化の出現と隆盛に付随して認知されてきました。ただ、元々アニメなどはSFやファンタジーの深い部分を汲み取って文化になってきたのに、『萌え』を発見してしまったことで『それだけでいいんだ』という事態になった。SFの作家も安易にライトノベルに身を寄せた結果、鬱になっている人が多いです」(唐沢氏)
山本弘会長のことではないよなあ。一体誰なんだろ。しかも、「鬱になった人がいる」んじゃなくて「鬱になっている人が多い」ときた。SF作家さんたちはそんなに大変なことになっているのか! …っていうか、唐沢の言い方だとまるでサブカルがオタク文化に内包されるかのように読めてしまう。オタク文化だって萌えだけで括れるほど狭いものではないのに。
この記事の取材の模様について「つぶやき日記」9月7日分には次のようにある。
で、待ち合わせの喫茶店行くが、満杯でロクな席なく、近くのガストでドリンク飲みつつ某週刊誌インタビュー。吉田豪さんの本でしゃべったことを聞かれる(ほとんど心臓の件)。おしまいあたりで恋愛事件とかについて、聞きにくそうに聞いてくるが、いや、あれはリップサービスに過ぎませんと答える(笑)。豪ちゃんもプロレスファンであるから、そこらのアングルはちゃんとわかっている。
「リップサービス」って…。いや、「大恋愛事件」の相手だと思われた方はたまったものじゃないでしょう。吉田さんがわかっているかどうかは問題じゃなくて、読者に誤解を与えかねないのが問題であって。しかし、「リップサービス」ということは、やっぱり片思いにすぎなかったものを恋愛に膨らませていたのか? 正直に語っているか疑わしい人から話を引き出すのは大変だったろうな、と吉田さんの苦労をあらためて考えてしまった。唐沢は吉田さんに後でいろいろと突っ込まれているけれど(3月10日の記事を参照)。
いつものことだが、肝心なところになるとカッコをつけてしまう、という印象がある。奥さんとの別居を軽く流すのもそうだし、「サブカル業界の衰え様」の話にしても、「全盛期に比べて収入が激減しちゃいましたよ〜」と我が身に引きつけて語れば面白くなるのに、何故か「鬱になっているSF作家が多い」と他人事になってしまう。唐沢俊一が真実を語ることを期待できないのはもはやしようのないことだが、「リップサービス」だとしても面白くない、という問題もあるように思う。この人に私小説は期待できないかな。
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