創薬研究者になるには中学レベルの数学で十分なのですか?

創薬研究者になるには中学レベルの数学で十分なのですか?」というコメントがあったので、自分の経験だけ書いてみる。

私は、薬学部(旧4年制)に入学して、薬学に必要なひと通りの基礎理論を学んだ。

ネットでしばしば見られる言葉に「高校での生物は大学では化学になる。そして、化学は物理に、物理は数学に、数学は哲学になる」というものがある。数学が哲学になるかどうかはわからないが、残りについてはほぼ当てはまる。

そして、この言葉は、「生物の基本に化学があり、化学の基礎に物理があり、物理の基礎に数学がある」ということも表している。つまり、これらの学問を貫くのは数学であり、数学を理解しないことには、生物も化学も物理もなかなか理解出来ない。

もちろん、全ての数学の分野をマスターしなくてはいけないというわけではない。ただ、大学教養過程で学ぶ微積分、線形代数はある程度理解出来ていないと、ついて行くのは厳しいと思う(だからこそ用意されているのだが)。

薬学の専門課程では、X線回折の授業でフーリエ変換を、薬物動態学の授業でラプラス変換を、化学の授業で変分法(の基礎の基礎)を学んだ。薬理学では薬物と受容体の相互作用を数理的に解析する理論を学んだ。もちろん、実験の解釈に必要な統計学についても学んだ。

現在、創薬研究を行っている現場では、私は薬理評価を担当しており、これらの数学を用いることは少ない(もちろん、他部署では当たり前のように使っているところもある)。ただ、薬理評価の部署とはいえ、様々な部門からやってくる様々なデータ・情報を評価するには、さまざまな分野(物理・化学含めて)の知識が必要である。そのため、大学でまなんだ薬学の専門課程の知識は必須である。数学をしっかり勉強しないとこれらの知識の理解も不十分となり、実際の研究現場に放り出されたときに痛い目に会うことになる。

念の為に書いておくが、今、私が中学数学を解いているのは単なる頭の体操としてであり、中学レベルの数学だけで創薬研究者になれるかというと、それはキツイだろう。創薬研究者になるからには、大学教養レベルの数学は理解できる必要がある。