北京リポート9

今日は印象に残った作品のご紹介。

作品リストはこちら。中国語で分かりにくいけど、チェックしてみてください。http://www.lixianting.org/entry/217

見た日時はごちゃごちゃです。またかなりナスカさんと被ってます。イデアの奇行(お休み中)
僕の書いてない作品は、ナスカさんの北京獨立電影展レポ(4日目)と(5日目:後半)を参照。


『病日記』 馬?? Ma ManJie あ、文字化けするか……。
中国語解説 → 無理矢理グーグル翻訳です
あらすじ:
ライフ
常に、最終的に人の荒野
私たちの思春期のようないくつかの人々
長く深い孤独感はほとんど病気
しかし、良い意味で
永遠の希望
抽象的なファンタジー
学生は、病気の夢のようです
夢と現実を区別することはできません。
この後
上がって成長している

さて、これはナスカさんと被ってますけど落とせない。病気の女の子の日記という形で、主人公の不安や夢が水彩画で美しく描かれてました。色と光がとても奇麗でした。写真は主人公の彷徨うお花畑。作者の方に「あれは臨死体験で花畑に行ったのか」と聞くと「単なる夢だ」そうで。中国の臨死体験は花畑には行かないんでしょうか。ナスカさんも僕もこれを取り上げた理由は、中国では珍しい手書きのアニメーションだったから。ホント、中国の作家さん達はパソコンのスキルがもの凄くて、反面、手描きの作品は数えるほど。



『火紅的青春』作・ 於水 Yu Shui 劉佳 Liu Jia

お次はこれ。ナスカさんも取り上げてますけど、これはちょっと詳しく解説。『火紅的青春』を訳せば『真っ赤な青春』てなもんでしょうか。なんだか女子高生がバレーボールでもしそうですけど。
しかし全然違います。
主人公はボケの始まったお婆さん。時代は二年前の北京オリンピックの頃。お婆さんだけがモノクロで描かれ、その他の人物や背景はカラーで描かれています。
・お婆さんはテレビを見ています。華やかなオリンピックが中継されています。
・お婆さんは若い頃を思い出しました。1958年(だったと思う)天安門広場でたった一度だけ毛沢東主席を見た事があるのです。
・お婆さんはその時(恐らく大躍進政策発動の式典)、仲間とともにピンクのドレスを着て歌って踊ったのでした。天安門広場に集まった人々の大歓声を、お婆さんは忘れません。
・人民服に着替えて、舞台から降りたお婆さん……ではなく少女は、そこで車の上から手を振る毛沢東の後ろ姿を見たのです。それは光り輝く、まさに神のような姿でした。

・お婆さんはオリンピックの中継を見て、自分も参加せねばならないと思うのです。早速タンスから色あせたドレスを取り出します。このドレスはカラーで描かれています。
・猫にえさをやったお婆さんは、僅かな紙幣(一元紙幣、五元紙幣と、種類ごとに丁寧に折り畳み財布に入れる)とドレスを鞄に入れて旅に出ます。
・お婆さんは電車に乗っています。目の前の若いカップルはキスしたり、周りの人たちもいかにも現代風で、人民服のお婆さんは浮いています。
・目の前の女の子がお婆さんにミカンをくれて(だったと思う)話しかけます。「おばあちゃん、どこ行くの?」「あたしはオリンピックに行って踊るんだよ」とお婆さん。
・電車からバスに乗り換えようとしたお婆さんは小銭を落としてしまいます。小銭を拾っている間にバスは出てしまい、仕方なくお婆さんは歩き始めます。
・一方、お婆さんの家では息子が大騒ぎ(この息子の顔は一切描かれない、ケータイを持っていて背広を着てるのでビジネスマンのよう)。警察に捜索願を出します。
・お婆さんは屋台で買ったお好み焼きのようなもの(たぶん高野君が食べたあれhttp://d.hatena.ne.jp/feml/「北京三日目」参照)を食べながら旅を続けます。
・テレビでは行方不明のお婆さんの事が報道されています。それを見る電車の中であった女の子。「これ、あのお婆ちゃんじゃん!」
・ついにお婆さんは天安門にやってきました。お婆さんを迎える人、人、人の渦。お婆さんは少女となり、ピンクのドレスを着て歌って踊ります。満場の喝采。あの炎の青春がよみがえります。
・「なにやってんだよ、母さん!」声がかかり、我に返るお婆さん。そこは人もまばらな天安門広場でした。
・車に乗せられ家へと向かうお婆さん。「はい、もちろん、謝礼はお払いしますよ、はい、ありがとうございました」息子はケータイで話しながら車を飛ばします。お婆さんは夜の車窓をぼんやりと眺めています……。

これでEND

これには感動してしまいました。
中国は今オリンピックが終わって、急激に経済発展をしています。二日目にバスから見た超高層マンションがその証。その一方、古いものはどんどん壊され、捨てられて行くのです。この作品はそういう現代の中国を見事に描いた傑作でした。





『老趙』 崔威 Cui Wei

さらにこれ。英語タイトルは『 Old Man』でしたから『老人』で良いのでしょう。
主人公は靴直しのお爺さんんですが、主演の方は実在の方じゃないでしょうか。半分ドキュメンタリーのような短編劇映画です。特筆すべきは、この主演のお爺さんが先日亡くなられた谷啓さんに瓜二つ!皆さん、下の粗筋は谷啓さん主演と思って読んでください。

・靴直しのお爺さん。今日もラジオを木の枝に引っ掛けて、小さな修理器具を道ばたに置き、タバコをふかしながら客を待つ。しかし最近は全く仕事が来ない。
・靴を片手に持ったサラリーマンが歩いてくる。仕事が来た、と揉み手のお爺さん。しかしその靴はゴミ箱へ。
・また客待ちをしているお爺さん。今度は真っ赤なハイヒールを持った若い女性。「今度こそ」とお爺さん。しかし、ハイヒールはまたゴミ箱へ。
・不思議な顔をするお爺さん。お爺さんには靴を捨てる事が理解できない。怒るでも無く、悲しむでも無く、お爺さんはゴミ箱をあさりハイヒールを取り出し、まじまじと見る。
・底の抜けかけた赤いハイヒール。お爺さんは底を針金で縫い、接着剤で補修する。奇麗に磨き上げ、ピカピカの靴になるが、引き取り手は居ない。お爺さんはその靴を自分の部屋に置く。
・次の日からお爺さんは街を彷徨い始める。見慣れぬ超高層ビル。着飾った人々が闊歩する街、街、街。
・お爺さんは行く先々でゴミ箱をあさり始める。
・お爺さんの部屋に増えて行く、靴、靴、靴。

これでおしまい。さっき粗筋を翻訳してみたら、どうも最後はお爺さんは亡くなったようです。
ラストの部分だけ翻訳コピペ。
〜数日後、旧趙が死亡した。彼の人生を伴う小さなカートがコーナーにとどまり、それとは反対側の赤い靴のペアです。しかし、赤い靴の横には、他の多くのペアがあります。〜
粗筋の最後の行を読むだけで涙が出てきます。

ちょっと用事があるので、今日はここまで。

おすすめ舞台『モグラ町1丁目7番地』

お久しぶりです。間野です。

今日はみなさんにぜひ見て欲しい舞台を紹介します。

龍昇企画公演『モグラ町1丁目7番地』
作/演出 前川麻子

2010年10月27日(水)〜11月3日(水・祝)こまばアゴラ劇場にて
龍昇企画とは俳優の龍昇さんが、作家、演出家、キャスト、スタッフを招いて、プロデュースするシリーズです。今回は3年連続で『モグラ町』シリーズを演出してきた前川麻子さんの「モグラ町」3作目であり、完結編です。

※詳細は下に!!!

演出の前川麻子さんのご好意で、僕は稽古場を何度も見学させていただきました。
初めて見学に行った時に思ったのは、「こんな人間関係のドラマをしみじみと描いた作品は久しぶりに観た」ということ。うまく表現できないのですが、しっくりと心になじむお芝居だな、と。

話はモグラ町に住む五人兄弟が主人公です。この五人、それぞれ貧乏、バカ、変態・・・と、ひとりも冴えた人がいない。野心も常識もない彼らですが、兄弟同士、または身近な女性たちとの会話の中に、お互いを許容するやさしさのようなものが見え隠れします。かといって素直ではないのですが、そこを隠すように見せるユーモアがこのお芝居の魅力だと思います。

また稽古場を見学させていただく中で、演出上の面白い工夫(生バンドつき。舞台造形も見もの)、そしてそれぞれの役者の魅力も大きな見所だと思いました。前川さんが役者を想定しながら書いただけあって、地の魅力がでています。ぼくがしっくりきたのは、大人の俳優が醸し出す中年期の独特な時間の流れを感じたからかもしれません。

チラシに前川さんは書いています。「だって、そんな物語を日常の隙間に忍び込ませることで『リアル人生ちょっとマシ』とでも思わないと、芝居なんてやってらんないからね」。
そのちょっとマシな感じって、身近なのにいつの間にか忘れてしまう時があります。
それを味わいに僕は何度か劇場に足を運ぼうと思っています。
みなさんも是非是非ご覧ください。


龍昇企画公演『モグラ町1丁目7番地』
作/演出 前川麻子
2010年10月27日(水)〜11月3日(水・祝)こまばアゴラ劇場にて

出演
塩野谷正幸 吉岡睦雄 稲増文 山本政保 吉田重幸 龍昇 渡辺真起子 
津田牧子 ローザ桂木 小林千里

2010年10月27日(水)〜11月3日(水・祝)こまばアゴラ劇場 地図→ http://www.komaba-agora.com/access.html

前売=3,500円 / 当日=3,700円
学生=3,000円(要事前電話予約S.T.Sのみ)

予約
e-plus→  http://eplus.jp/sys/main.jsp
S.T.S TEL 03-5272-4393(月〜土 10:00〜17:00) FAX 03-5272-5444


演出家より(チラシから抜粋)
モグラ町シリーズは、モグラ町に暮らす中年期の五人兄弟が主人公の物語だ。今回の作品がシリーズの完結編になる。とはいえ、どの作品にも大したことは起きない。ちょっとしたことで大騒ぎをし、肝心なことにはまったくまともな対応ができない、ダメな大人たちの話だからである。現実の人生には、お芝居のようにドラマティックな出来事はまず滅多に起きないし、それらが見事に丸く収まる大団円もない。ましてや、舞台崩しのように全部をぶちこわしておしまい、にできる日常は存在しない。そもそも我々は暗転も初日も千秋楽も打ち上げもない日常を、ひーひー言いながら生きているわけで。お芝居だからってモグラな兄弟どもだけに都合のいい人生をやらせると、なんだよこっちはモグラ以下の人生かよと、現実人生がよりしんどくなる。だから、モグラ兄弟の人生は今回も散々だ。夢や希望や価値など、欠片も見当たらない。
だって、そんな物語を日常の隙間に忍び込ませることで「リアル人生ちょっとマシ」とでも思わないと、芝居なんてやってらんないからね。
前川麻子