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イワン・ヴィシネグラツキー

音楽

イワン・ヴィシネグラツキー

いわんういしゅねぐらつきー

フランス亡命したロシア作曲家

全音音階の等分方法から長音階短音階が生まれたという「ウルトラクロマティック」概念に基づく理論を編み出した音楽家。スクリャービンの影響から始まったが、やがて四分音、六分音、十二分音の特殊な音響に基づく音楽へ傾斜。生涯わずらった結核のために、サナトリウムと自宅の往復を余儀なくされた。ロシア革命勃発後、フランスへ亡命亡命直後のフランスでは創作概念が黙殺されるが、ピュイグ・ロジェ、ジェラール・フレミー、藤井一興、マルチネ・ジョスト、ポール・メファノ、棚田文則、アンサンブル2e2mらの演奏家の支援を受け、公的な再評価が最晩年になされた。クロード・バリフが唯一の高弟。ロシア・アヴァンギャルドの一員ともみなされていたが、本人は微分音楽派の正当派を自認していた。

71等分したどのピッチもランダムに鳴らしていても「微分音」音楽とは認識できない、という彼のレビュー・ミュジカルに投稿したフランス語論文は、その後多くの作曲家の創作の源泉となった点で、大変貴重である。ピアノ音楽や弦楽器のための音楽が主流だが、フォッカー・オルガンのための習作も一曲だけ残されていたように、どの微分音体系でも作曲は可能と考えていた。ラジオ・フランスが彼に委嘱したのは「弦楽三重奏曲」一曲のみであり、死によって未完に終わった断片をバリフが再構成しなおしたものである。「24の前奏曲」の全曲世界初演は、演奏不可能な問題を常に含み難航したが、東京でなされ、その後録音がFONTECから発売された。ヴィシネグラツキー微分音の音律は、正常な四分音とは微妙にそれることも大きな話題となった。(この問題をロジェ女史が常にリハーサルで指摘していた。)

ハーバとは微分音の旋律進行について対立し、結局ヴィシネグラツキーのほうから、ハーバと決裂した。ハーバの四分音ピアノファンタジーの演奏方法と、ヴィシネグラツキーダイアローグの演奏方法は、同一ではない。ヴィシネグラツキーの場合は通常のピアノ演奏で対応可能だが、ハーバの場合は特殊な鍵盤配列の運指を1から学ばねばならなくなる。ハーバの製作したピアノは「黒鍵を分割する」鍵盤、ヴィシネグラツキーが提案した鍵盤は「オルガンのような複段鍵盤」であり、強硬にヴィシネグラツキーが反駁したのである。

フォルテ」、と、「ピアノ」の中間に位置する「メゾ」という強弱記号を、初めて公的な出版物(「24の前奏曲」)に指定した世界最初の作曲家でもある。藤井以後の世代にあたる星谷丈生も、2008年にアンサンブル・ボワの定期演奏会で「24の前奏曲」を21年ぶりに紹介した。