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インガルデン

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インガルデン

いんがるでん

Roman Witold Ingarden (1893.02.05-1970.06.14)

ポーランド哲学者現象学者・美学者.アドルフ・ライナッハ?と並んで,ミュンヘン・ゲッチンゲン現象学派を代表する人物の一人.クラクフ大学時代の故ヨハネ・パウロ2世哲学の先生であり,また,ルヴフのギムナジウム数学の教師をしていたときには,スタニスワフ・レム のいるクラスを受け持ったこともある*1

ミュンヘン・ゲッチンゲン学派に属する他の哲学者と同じく,インガルデンフッサールの超越論的観念論に対して終始批判的な態度を貫き,実在論的な現象学を志向した.したがって師フッサールとは根本的な対立関係にあるのだが,インガルデンは超越論的観念論を単に独断的なものとして退けたわけではなく,むしろ超越論的現象学の認識論的な意義を十分に認めつつ,それと徹底的に対決することを通じて自らの立場を築いていったのである.この点で,インガルデンは同学派の中でも特筆すべき業績を残した哲学者であると言えよう.またフッサール自身も,インガルデンが超越論的現象学を拒否することを残念がりながらも,「もっとも優秀で創造的な学生」と激賞してその実力を認めていたことは,よく知られている.

従来インガルデン美学者としての側面に注目されることが多いが,<純粋志向対象としての文学作品>や<未規定箇所>といった概念に代表されるその理論は,上述したフッサールの超越論的観念論的側面との対決という背景を持つものであり,受容理論の先駆けとなった美学理論というよりも,存在論的な理論として,より広範な文脈に置きつつ読み直されることが必要とされている*2

代表的な著作としては,以下のものがある(ポーランド語での著作は割愛した).

  1. Intuition und Intellekt bei Henri Bergson, Halle: Max Niemeyer, 1921.
  2. Essentiale Fragen. Ein Beitrag zum Problem des Wesens, Halle: Max Niemeyer, 1925.
  3. “Bemerkungen zum Problem Idealismus-Realismus,” Jahrbuch für Philosophie und Phänomenologische Forschung, Ergänzungsband: Festschrift, Edmund Husserl zum 70. Geburtstag gewidmet. Halle: 1929, pp. 159-190.
  4. Das literarische Kunstwerk. Eine Untersuchung aus dem Grenzgebiet der Ontologie, Logik und Literaturwissenschaft, Halle: Max Niemeyer, 1931.
  5. Untersuchungen zur Ontologie der Kunst: Musikwerk. Bild. Architektur. Film, Tübingen: Max Niemeyer, 1962.
  6. Der Streit um die Existenz der Welt. Bd. I, II/I, II/2. Tübingen: Max Niemeyer, 1964.
  7. Vom Erkennen des literarischen Kunstwerks, Tübingen: Max Niemeyer, 1968.
  8. Über die kausale Struktur der realen Welt. Der Streit um die Existenz der Welt, Band III. Tübingen: Max Niemeyer, 1974.

また,日本語で読める文献として,次のものがある.

  1. 「エドムント・フッサールにおける超越論的理念論〔Idealismus:観念論〕について」,金田晋訳,『フッサール現代思想』,せりか書房,1972,147-166.
  2. 「「エドムント・フッサールの思い出」および書簡への注釈」,桑野耕三・佐藤真理人訳,『フッサール書簡集:フッサールからインガルデンへ』,せりか書房,1982,157-276. ISBN:479670129X
  3. 『人間論:時間・責任・価値 』,武井勇四郎・赤松常弘訳,法政大学出版局,1983.ISBN:4588001272
  4. 文学的芸術作品』,瀧内槇雄・細井雄介訳,勁草書房,1982(新装版,1998).ISBN:4326800208(上記文献表の4の訳)
  5. 『音楽作品とその同一性の問題』,安川あきら訳,関西大学出版部,2000.ISBN:4873543142

日本語で読める手軽な解説としては,以下の本のインガルデンについての節がよい(執筆者はスピーゲルバーグではなく,ギド・キュンク).

  • H・スピーゲルバーグ 『現象学運動』上巻,立松弘孝訳,世界書院,2000年. 4792720729

参考文献

  1. Gregor Haeflige Über Existenz: die Ontologie Roman Ingardens, Dordrecht: Kluwer Academic Publishers,1994.
  2. Amie L. Thomasson Fiction and Metaphysics, Cambridge: Cambridge University Press, 1999. ISBN:0521640806
  3. Arkadiusz Chrudzimski Die Erkenntnistheorie von Roman Ingarden, Dordrecht: Kluwer Academic Publishers, 1999

*1スタニスワフ・レム 「高い城」,芝田文乃訳,『高い城・文学エッセイ』,国書刊行会,2004年,88頁.)

*2:このような立場からのインガルデン研究として,[Haeflige 1994]を参照のこと.また,現代の分析的形而上学の立場からインガルデンの虚構作品論を擁護するものとして,[Thomasson 1999]が,フッサールの超越論的観念論的に一定の評価を与えつつ展開された認識論的分析に関する研究として,[Chrudzmiski 1999]があげられる