『ラウリ・クースクを探して』宮内悠介 著者は最初に言う「ラウリ・クースクは何もなさなかった」。ソ連が解体し、ロシアになる過程で周辺諸国にはどんなことが起こったのか。エストニアに生まれた無名の主人公が辿る過酷な運命が淡々と描かれ、現代史のもつ悲劇が浮かび上がる。2023年の最高傑作とも言ってよい作品で、直木賞候補になった。 ラウルはコンピュータのプログラミングに優れた才能を発揮し、ゲームソフトなどで賞賛を浴びる。ロシア人の友人とともに切磋琢磨しながら夢を追い求めたが、ソ連崩壊によって道を断たれる。 彼とイヴァン、そしてカーチャ。イヴァンは一色覚の障害を抱え、血の日曜日の影響でロシアに帰り記者とな…