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ペスト菌

サイエンス

ペスト菌

ぺすときん

(Yersinia pestis)

ペスト菌Yersinia pesitisは卵型のグラム陰性桿菌で,両端が強く染色される特徴をもっています(両染色性).

ペスト菌は本来リスやネズミなど野生げっ歯類の間の伝染病ですが,野生げっ歯類から人間の居住区に出入りしているネズミに広がりヒトにも感染します.ネズミなどからヒトへの感染を仲介するものはノミで,感染した動物の血液を吸ったノミの前胃で増殖した菌が人間をかむことによってたり,あるいはノミの便に出た菌がヒトの傷口に付着して感染します.ペストは6世紀,14-17世紀,19世紀に大流行し,ヨーロッパではペスト黒死病として恐れられ,大流行によってヨーロッパ全体の人口の1/3もが失われたといわれてたほど,その病原性は強いものです.おとぎ話のハーメルの笛吹きの話は当時にヨーロッパの状態を物語ったものといわれます. この菌は急激な敗血症を起こしチアノーゼを示すことからペスト黒死病と呼ばれ中世ヨーロッパでは恐れられましたました. この病原は北里柴三郎,A. Yersinによって独立して分離されましたが,コッホは街のネズミを駆除するとこによって,その伝染病を押さえることができたという話は有名です.

日本では1926年横浜で8件の例を見て以来発生はありせんが,世界的にはアジアミャンマー,中国東北部など),インド,アフリカ(ケニヤ,マダカスカルなど)などでは地方病としてあり,また南北アメリカ,アジア,ヨーロッパ各地でも時々散発的に発生しています.アメリカ大陸のロッキー山系の動物はいまももっているといわれます.1994年にインドで多数の患者の発生がみられ社会的パニックを起こしている.また,マダガスカルでは多剤耐性株による患者が現れている. したがって外国からの船はネズミの棲み家になりやすいので,昔から船舶乗組員の厳重な検疫と,殺鼠ガスでのネズミ燻浄駆除は検疫上重要は大切です.航空機などによる交通手段の発達した現在警戒を緩めるわけにはいけません.

ペストは臨床的に次の3型に分けられています.

* 皮膚ペスト:ノミがヒトを刺すときにノミの体内で増殖したパスと菌が人体内に注入されるため,ノミの刺口部を中心に感染が起こることを言います.初めは丘診状を呈しますが,次第に水疱化,膿胞化していきます.

* 腺ペストペスト患者の約9割はこの型です.ノミに刺口部に変化が見られず,まず刺口部近くのリンパ節,一般に鼠径,下腿部のリンパ節,他に頚部,下顎部,腋窩リンパ節に炎症,著しい腫脹が起こります.腫脹の縁辺は堅く,また腺腫は圧痛をとももない,ひどい場合にはテニスボール大にもなることがあります.この型は敗血症に移行しやすい.敗血症になると高熱,頻脈のほかに出血性素因も加わり全身に紫斑様の皮疹(黒ペスト)みられるとともに,すみやかに意識障害心不全,昏睡状態に陥り数日で死亡する.

* 肺ペスト:腺ペスト敗血症→肺炎という腺ペストが進行した結果おこる続発性肺ペストがあります,また肺ペスト患者では喀痰の中に多くのペスト菌を含んでいるため,菌をふくんだ飛沫を咳などにより空中に飛ばし,それを吸ったことによる経気道感染や,病原菌をふくんた患者の分泌排泄物で汚染された衣服の塵埃などを吸い込んでおこす原発性肺ペストとがあります.

 症状は頭痛,全身の倦怠感,発熱,嘔吐ではじまり原発性肺出血を起こし呼吸困難,激しい咳をともない意識障害と激痛をもともない数日の経過で死亡します.潜伏期が短いほど重症になります.

* その他,肺ペスト,腺ペストとはことなり,血中からは菌が分離培養できるが,局所所見がみられない特別な型もあります.これは流行の極期に現れる恐るべき型で,24時間以内に死亡するといわれています.

ペストの潜伏期間は普通2〜10日で,腺ペストで6〜10日,肺ペストで2〜3日です.死亡率は抗生剤での治療を行わない場合腺ペストで60-90%,肺ペストで100%といわれています(ペストが流行していた時代には抗生剤は存在しなかったため).

ペスト菌は食細胞に対して強い抵抗性をもっていて,喰食されても死滅しないと考えられています.その病原性を決定する因子については十分解明されていませんが,VM抗原が毒力に関係するといわれています.

治療としてはペニシリンは無効ですがテトラサイクリン,サルファ剤が有効です.

ペスト菌