ポリスノーツ

ゲーム

ポリスノーツ

ぽりすのーつ

コナミアドベンチャーゲーム。及びゲーム中に登場する団体の呼称。

メタルギアソリッド」の小島秀夫監督によって制作された、テキストベースのアドベンチャーゲーム

主人公の探偵+ジョナサンイングラムとなって、黎明期宇宙開発に潜む陰謀を暴いてゆく。

昔ながらのスペースコロニーを意図的に舞台として選び、また探偵ものの定番である臓器移植や麻薬を扱ってはいるが、その用い方は放射線や無重力、過酷なストレスといった宇宙医療という「最先端の」現実からのいわば必然的な帰結として描かれており、その表層のオマージュパスティーシュめいた表層(「リーサル・ウェポン」の誰にでも分かる援用など)とは裏腹に、かなり独創的で、理論的に構築された世界観が展開される、小島作品の中でももっともオリジナリティが高い作品といってよい。小島秀夫が単独で脚本を書いた最後の作品でもある。フィクションのジャンルとしては、後の「プラネテス」「ムーンライト・マイル」に連なる「近未来の宇宙開発の現実」ものとも言える。


ヴァージョン情報

物語

 ついに、ヒトは宇宙にたどりついた。あの、アイランド3型コロニーによって。

 それは向こう岸、彼岸と名付けられた。

 何の向こう岸なのか、どこの彼岸なのか。

 人類がその答を理解するには、コロニーの完成から30年を経なければならなかった。

 2010年、人類は月と地球との重力均衡点L5ことラグランジュ・ポイント5に、オニール型コロニー「BEYOND COAST(ビヨンド・コースト)」を完成した。

 宇宙への一般市民の大量移住。特に訓練されたわけでもないごく普通の市民たちが、宇宙という絶対的な虚無に打ち立てられた、テクノロジーの城壁に護られて生活する。そこでは地上と同じ営みが行われるようになるだろう。人の営み、その中には犯罪も当然の如く含まれる。

 そこで、宇宙活動の訓練を受けた5人の警察官が、BEYONDの治安の礎を築くべく、世界中の警察官から選出された。イギリススコットランドヤードからゲイツ・ベッカー、日本・警視庁からジョゼフ・サダオキ・トクガワ、アメリカニューヨーク市警からサルバトーレ・トスカニーニ、同じくアメリカはロス市警からジョナサンイングラムとエド・ブラウン。

 第一次入植から3年後の2013年、EVA(船外活動)をはじめとする各種宇宙活動の訓練過程を経て、彼ら、警察権限を有する宇宙飛行士達がBEYONDに到着した。

 POLICEであり、またASTRONAUTSである彼ら。

 人々は彼らを「POLICENAUTS」と呼んだ。

 最初のポリスノーツゲイツら5人は「オリジナル・コップ(最初の警官)」と呼ばれ、BEYONDと、宇宙開発を象徴するイコンとなった。ポリスノーツのひとり、ジョナサンイングラムは人類初の火星有人飛行にも参加し、ヒトとして最初に火星の赤土を踏みしめた者のひとりだった。

 そのジョナサンが、開発中のEMPS(コロニー外活動用ポリススーツ)を試験遊泳させていたときのことだった。ゲイツやエドら、ポリスノーツの面々が遊泳を見守るコントロール室のテレメトリに、ワーニングが鳴り響いた。ジョナサンは反応しようとしたが、遅かった。バーニアから圧縮空気がすさまじい勢いで噴射され、ジョナサンを虚空の彼方へ吹き飛ばす。

 コントロールを失ったジョナサンは、果てしなく飛ばされていった。どこまでも。

 迷子を探すには、宇宙はあまりに広大過ぎた。そこでは、ヒトひとりなど、浜辺の砂粒以下の存在でしかなかった。

 ベアーズ・ハイバーション(人工冬眠)が可能な非常ポッドの中で胎児のように身を丸め、ジョナサンは待った。

 その砂粒を、浜辺から拾い上げてくれる奇跡を。

 そして砂粒は拾い上げられた。25年後に。

 2038年冥王星軌道で活動中だった深宇宙探査船が、宇宙空間をただよう人工物体から発せられる救助ビーコンを捉えた。その中に眠っていたのは、火星の土を人類で初めて踏んだ男であり、また宇宙開発の英雄であるポリスノーツであった男、ジョナサンイングラムだった。極端に緩慢な代謝の中で過ごしたとはいえ、それでも25年という年月は、ジョナサンの肉体から筋肉をごっそりと奪っていた。肉体は若いまま保存され、回復は辛いながらも容易ではあったが、決定的に回復し得ないものもあった。知人はジョナサンを置いて、25年の年月を重ねていた。妻のロレインは再婚し、ポリスノーツの仲間たちはBEYONDでそれぞれの生活を送っていた。世界も変貌していた。地球は時代遅れの様相を漂わせ、雨すらロクに降らず渇水に悩んでいたはずの西海岸には、今や異常気象で雪が降る有り様だった。

 時代からどうしようもなく取り残され、宇宙恐怖症になったジョナサンイングラムは、オールド・ロスと呼ばれるかつてのロサンゼルスの残骸で、人質交渉人を兼ねる私立探偵を営み、日々の食い扶持を稼いでいた。

 地球は時代遅れになりつつあった。治安は悪化し、誘拐は身代金目的でなく、最初から被害者の臓器目当てというえげつない方法にシフトしていた。今回の人質交渉に失敗したのも、おそらくは犯人が最初から身代金なんて求めちゃいなかったからだろう、とジョナサンは失敗に終わった仕事のことを考えていた。そんなとき、BEYOND COASTからひとりの女性が事務所を訪れた。

 ロレイン・北条。かつてロレイン・イングラムでもあった女性だった。

「助けてほしいの」

 彼女はそういって、夫である北条ケンゾウが行方不明になっていることを説明した。空間的にたかが知れている密閉空間のBEYONDで、これほど長期に身を隠せる場所などありはしない。死体になっているのならすぐ見つかるはずだ。北条はBEYONDを牛耳る医療産業複合体、トクガワ製薬の技術者だった。だから仮にトクガワグループの人間に手を出せば、どんな人間もただではすまないだろう。しかし北条はなんらかのトラブルに巻き込まれたらしい。一体なぜか。

 しかし、ジョナサンは返事を躊躇した。宇宙へ戻るのが怖かったのか、それともロレインへの断ち切りがたい想いがそうしたのか、わからない。しかし、その躊躇はジョナサンにとって致命的だった。

 ジョナサンの返事を受けて、とりあえずホテルへ戻ろうとしたロレインの車が、ジョナサンの目の前で轟音とともに弾けとんだ。

 炎のオレンジ色が、オールドロスの歩道と、そこに積もった汚い雪を明るく照らす。ジョナサンは事務所を飛び出した。

キャスト