コルカタ出身の両親のもとでロンドンで生まれ、アメリカで育って英語で小説を書いていた著者が、ローマに移住してイタリア語で作品を書き始めた時には驚きました。エッセイ『べつの言葉で』と長編小説『わたしのいるところ』に続く3作目のイタリア語作品である本書は、なんと詩集です。 本書は、ラヒリが暮らすローマの家の書き物机から発見された「ネリーナ」という詩集を紹介するという体裁で構成されています。しかしネリーナという架空の女性の経歴は、素性、言語、家族、旅行体験に至るまでラヒリと酷似しており、この詩集にはラヒリの自伝的要素がぎっしりと詰まっているようです。つまりラヒリは本書の中で、本名による序文執筆、ネリー…