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メイドさん

一般

メイドさん

めいどさん

maid

「お帰りなさいませご主人様。お帰りなさいませお嬢様。」

 

概略

辞書および新聞では「メード」と表記することになっている。「maid」の訳語としては「侍女」「女中」「家政婦」等がある(が、これらの語が用いられた文脈の中に、萌えの対象を見いだすことは一般に困難とされている)。

単に「メイド」と称するならば、市原悦子が演じる『家政婦は見た』の家政婦(日本の近現代)ないし『トムとジェリー』に足だけ登場する黒人おばさん(20世紀初頭の米国)までも広く含めることが可能である。

 

定義

日本秋葉原発祥のオタク文化においては、対象を萌えキャラとしてみなす場合に際し、(maid一般から区別して)《メイドさん》と表記するのが一般的である。これを作為的に用いている例として、中山文十郎ぢたま某まほろまてぃっく』(1999年)が挙げられる。この作品が雛形としての「メイドさん」流布の最大の功労者であり、メイド喫茶の文化へとつながっていく。

メイドさん》は個々のメイドを指す敬称(愛称)であると同時に、「眼鏡っ娘」「猫耳」等と同様、萌え属性の一つとして数えられる集合名詞でもある。

 

発生と展開

その起源をたどると、PC-98x1シリーズ向けに発売されたゲーム『殻の中の小鳥』(1996年、BLACK PACKAGE)によって「メイドさん物」というジャンルが確立し、続作『雛鳥の囀』(1997年Studio B-ROOM)によって発展に至ったとするのが通説である。

また、東浩紀は著書『動物化するポストモダン』において、メイド服萌え要素となった源流は『くりいむレモン 11 黒猫館』であるとの指摘を行っている。

21世紀になって、秋葉原発祥地として全国に「メイド喫茶」が増殖。なぜ秋葉原メイドさんの喫茶店なのか、という問いには、ルーツとして1997年から秋葉原を中心に発売されたアクセサリーソフト『デスクトップのメイドさん』も挙げることができよう。パソコン起動時に「おかえりなさいませ旦那様」と呼びかけてくれる機能は、星新一ショートショートを想起させることとあいまって萌える感情を惹起、メイド喫茶にその精神が受け継がれ、「おかえりなさいませご主人様」としてメイドさんの決め台詞として浸透し、ついには萌えの代名詞になってしまった。

いずれにせよ、かかる萌え属性の登場は大いに反響を呼び、90年代終盤から00年代初頭にかけてゲーム、アニメ、漫画とジャンルを問わず瞬く間に波及。コスプレ等においても高い人気を持つに至った。2003年には、メイド喫茶の乱立を招くまで加熱する。

更に現在は、オタク向けに留まらず一般向けの風俗業界でも「メイドさん」の需要が認知されつつある。

(関連事項:「メイド喫茶」「メイドカフェ」)

正統的なメイドさんを描く作例としては、森薫『エマ』がある。村上リコとの共著『エマヴィクトリアンガイド (Beam comix)』も、資料として有用であろう。

斎藤環は、その著書『戦闘美少女の精神分析』において「ファリック・ガールズ」と名付けた「戦うヒロイン」への分化が起こっていると指摘する。「戦闘メイド」の方向へと向かった例としては、前掲『まほろまてぃっく』、『デスクトップのメイドさんCD』や、柴田昌弘サライ』などが挙げられる。

 

史実における位置づけ

メイドさん」の代名詞ともいえるエプロンドレスであるが、これは19世紀末英国ヴィクトリア様式に依拠するものである。

当時、産業革命の進展に伴って生じた中産階級*1が誕生し、それとともに現在「メイドさん」と言われて連想するようなスタイルの家事労働者が成立したものである。この点では「侍」や「騎士」が中世封建制とセットで存在していたのと同様である*2

 

「お帰りなさいませ御主人様。」

日本のメイドさんの代名詞ともなっている決め台詞だが、その変遷は興味深い。『デスクトップのメイドさん』では「お帰りなさいませ旦那様」(メイファン編等)となっているのが、『まほろまてぃっく』では「優さん、お帰りなさいませ〜」(優(すぐる)さんは男性の名)となり、現在のメイド喫茶では一般的に「お帰りなさいませご主人さま」と言うことが多い。いずれにせよ、実際には家政婦としてのmaidの主人は奥様であるため、男性全般に「ご主人様」、女性全般に「お嬢様」と呼ぶ事は無い。メイドさんは本来のmaidとは別のモノであり、日本独自の文化として発展してきているのが見て取れる。

 

関連資料

*1:日本的な所謂「中産階級」と欧米におけるmiddle classは相当に異質なものであるが

*2:これらについては後掲『震空館』に詳しい

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