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メルカヴァ

(一般)
めるかば

Merkava
イスラエル軍(IDF)の装備する現用主力戦車(MBT)。フロントエンジン、楔形砲塔、60mm迫撃砲装備など、特異な設計思想で知られる。
なお、「日本軍の戦闘機はみんなゼロ戦」と同じようなメンタリティで「イスラエル軍の戦車は全部メルカバ」と言ってる場合もあるが、言うまでもなく間違いである。

歴史

典型的な貧乏陸軍同士の戦いであった第一次中東戦争(イスラエル独立戦争)を除けば、中東戦争の特徴は砂漠の中で繰り広げられた機動戦にある。ロンメルの時代さながらに、機動力に優れた機械化部隊による砂漠の中の迂回や突破戦闘が展開された。
国土が狭隘で、周囲に敵対国家しか存在せず、人口も少ないイスラエルにとって、機動戦とそれを行う能力こそが生命線であると考えられていた。戦略的縦深の欠如は消極的な防衛戦を困難なものとするし、戦略的包囲下では積極的な内線作戦に打って出るしかないし、動員兵力の少なさが短期決戦以外を許してくれない。
戦車の入手には困難が伴ったが、とにかくイスラエルは様々な戦車*1を装備した機甲部隊を作り上げた。
といっても、それらの中古戦車だけで、アラブ諸国が繰り出してくるソ連脅威のメカニズムの新型戦車群に対抗するのも限度がある。新品の戦車を売ってくれる国もなかった*2ので、イスラエルは主力戦車の自力開発に乗り出した。
計画の中心人物となったのは、イスラエル・タル将軍*3だった。まずイスラエルで戦車の自力開発が可能か、そしてその場合に満足な性能は得られるのかの調査が行われ、それはいずれも可とされた。こうして1970年にメルカヴァ戦車の開発が始まったとされている。
開発コンセプトとしては、生存性を高めることに主眼が置かれた(戦車三要素「装甲・火力・機動力」で言えば装甲重視になる)。もともと人口の少ないイスラエルでは兵士の人命こそがもっとも貴重なリソースである。
また、イスラエルが置かれている戦略環境から要求される戦闘スタイル*4からも、防御力を重視するべきなのは明らかだった*5。何にせよ新規戦車の開発は難事であり、パワーパックに関してはアメリカのM60のものを流用し、主砲はオーソドックスな105mmライフル砲を採用している。
開発中に第四次中東戦争が勃発、イスラエル戦車隊がエジプト軍の構築した対戦車陣地によって大きな損害を受けるなどの事件も発生していた。対戦車ミサイルの威力を見た各国では戦車無用論が台頭したりもしたが、だからといって当のイスラエルは戦車の開発を止めたりはしなかった。
こうして1979年に最初の量産型、メルカヴァmk.1が配備された。イスラエルの得た戦訓を存分に取り入れ、生存性を高めるために以下のような努力がなされていた。

  • パワーパック(動力部)を戦車前面に配置
  • 射撃態勢での前方投影面積の縮小
  • 乗員区画は可燃性材料を不使用
  • 主砲弾をターレット・リング下と車体後部の耐熱部に格納

パワーパックの前面配置は大抵の国と逆であるが、これによってエンジン全部が装甲になる*6ことで乗員の生存性が向上することになる。また、戦闘時にもっとも被弾しやすい砲塔のサイズを小さくして、ついでに誘爆を避けるためにも砲塔内への主砲弾の搭載を止めている。さらに通常の戦車では(エンジンがあるから)設ける事の不可能な後部ドアが設置されており、大きな車内スペース*7を確保している。イスラエルの戦闘スタイルからすれば、大きな車内スペースは、その分大量の弾薬や水・食料を搭載できることになり、大きなアドバンテージになる*8


メルカヴァの経験した最初の実戦は1982年のレバノン侵攻であり、ここで大きな成功を収め、設計コンセプトの正しさを立証した。
以後、小改良の行われたMK.2*9、大胆なモジュラー化が行われたMK.3(このときから120mm砲装備)、最新のMK.4までが登場している。

*1:第二次世界大戦時のM4シャーマンやクロムウェルから果てはアラブ諸国から鹵獲した各種戦車まで。独自改造がなされたシャーマン戦車の中には「スーパーシャーマン」「アイシャーマン」などと俗称される、ほとんど別物の域に達したものも

*2:イギリスからチーフテンを導入できそうだったが、アラブ諸国の反対で失敗

*3:Israel Tal。当時の世界的な戦車戦の権威。オールタンクドクトリンの提唱者

*4:戦争になったらとりあえず敵地に突っ込み、国連決議が降ってくる前になるべく多くの土地を占領しておく

*5:非常に大雑把な話だが、頭数に勝るなら攻撃力、作戦機動の自由度が大きいなら機動力が求められる。強力なエンジンを積むのを前提に設計して全部を追求するという手もあるが、金と技術が必要なんで当時のイスラエルにはちょっと無理

*6:徹甲弾相手はともかく、成形炸薬弾頭等が相手ならば距離=装甲なので相当に有効だと考えられる

*7:乗員と装備以外に、人間であれば6人を載せることが可能とされる。「APCとしても使えます」というのが売り文句の一つだったが、今のところ他にこの戦車を買った国はない

*8:その他、いわゆるダックインdug-in戦術をとる場合、後部ドアから戦闘中でも補給を行ったりできるとも言われる

*9:特徴的な砲塔下部のチェーンカーテンはこのときに追加された

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