もうずいぶん前に読んだ「思いがけない涙」という短いエッセイが何故か心に残っている。既に亡くなられたと思うが、当時俳優でエッセイストとしても活躍していた三國一朗さんが書かれたものだった。三國さんはその中で、日頃いかにも「泣かせます」あるいは「泣いてください」というような状況では決して涙することはないのに、思いがけないときに涙を流したエピソードを二つ書いている。 一つは、お通夜をしている見知らぬ家の供花に「孫一同」と書かれているのを通りすがりに見たときの話だ。日頃は俳句をひねったりすることはないのに、何故かそのとき「孫一同」で始まる句が思い浮かんだそうだ。ではそこで涙を流したのかというと、そうでは…