風 3 (その曲知っているわ。セイさんがよくひいていたじゃないの、私好きだったのよ。)そういえばそうねともうひとりが相槌を打った。セイさんというのは誰か俺は問うた。二人は顔を見合わせ、一呼吸おき、貴方の先日亡くなった従兄弟だと言った。母の兄の息子であった。この家の跡取りであり名を倩爾というのだった。俺は彼がピアノを弾くことを知らなかった。 (外国へ行ったのも、コンセルとかのためだったのよ、あそこへ行かなければまだ生きていたかもわからないわね。)そうよと着物の袖で眼を拭う仕草をする叔母を見つめながら俺は驚愕した。コンセルといえばコンセルヴァトワールのことだ。それは例えばアメリカのジュリアードやバ…