岡田利規の小説の特徴として*1、一人称視点を採用していながら、語り手が知り得ないはずの情報までエクスキューズなしに語る、ということがある。 十分以上、誰も来ない時間があったあとで、小さな男の子をつれた女性が入ってきました。男の子が背伸びをして、パンをつかむためのトングを、それが何本も細い金属のハンガーに並んで引っ掛けられているところからひとつ取ろうとして、摑むなり、床に落としました。レジでおばあさんに歳を尋ねられて、男の子は右手の指を四本にしました。それを見て、おいおいまだ三歳だろう、と女性が言いました。でも、男の子は、小指を親指で引っ掛けるのに失敗してしまっただけなのでした。 自分が三歳なの…