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繰り込み

元々は量子電磁力学における発散の問題を回避するために考えられた手法だが、統計力学の分野にも応用され大きな成果が得られた。

基本的には「細かいことには目をつぶる」という戦略だといえる。量子電磁力学では無限に細かい空間スケールからの物理量への寄与が発散してしまう。しかし実験では無限に細かい空間スケールは見えないし、測定される物理量は常に有限である。だから発散は「見なかったことに」して、無限に細かい空間スケールを調べた場合という実際にはありえない場合にだけ発散するようにすれば実際の実験と比較する場合には全く問題がない。

統計力学の場合も、我々が知りたいのはマクロなスケールでの物理量の振舞いであり、最終的には細かいスケールの変数は消去して(業界用語だと trace out)マクロな量を計算する。ここで重要なのは繰り込みにおいては細かいことを「無視する」のではなく大きいスケールの変数に「取りこむ」(あるいは繰り込む)ということである。モデルを作る時に、細かいスケールをちゃんと計算した場合と同じ振舞いを示すように、おおざっぱなスケールのモデルを作るのが繰り込みだといえる。

しかしこのような方法がいつも使えるとは限らない。そもそもモデルとして細かい空間スケールを出発点にしているのは、そのほうがモデルが単純になるからである。統計力学も単純なミクロのモデルから複雑なマクロな振舞を再現することを目標としている。細かい部分の寄与を大きいスケールの変数の振舞いで表そうとすれば通常はモデルが複雑になって手におえなくなる。

統計力学臨界現象の研究において繰り込みが成功したのは、臨界点で「スケール不変性」が成り立っているのが大きい。すなわち細かい部分を大きな変数に繰り込んでスケールの荒いモデルを作ると、元のモデルと同じようなモデルになって、どんどん複雑になるという困難が出てこない。逆に臨界現象においては荒いモデルをどんどん作って行くと、初めにモデルに含まれていた項のほとんどがどんどん小さくなっていき無視できるようになることが分かっている。すなわち様々な物質で出発点となるモデルが異なっていても、臨界点ではそれらの差異がなくなっていって最終的に同一のモデルで表される、ということが起こる。実際、様々な物質で本質的に同じ相転移が実験で観測されている。これがユニバーサリティと呼ばれる概念で、単純な理論モデルが実験とよく合う結果を出すことを保障する原理でもある。

同じようにスケール不変性を示す乱流などの現象にも応用が試みられているが、こちらは色々難しくてあまり成果は上がっていない。