吉田健一(1912-1977)という作家がいた。文芸評論、翻訳、そして小説を書いた。この人は「書く楽しみ」に加えて、「食べる楽しみ」と「飲む楽しみ」をあわせて三楽と呼んでいる。食と酒についてのエッセイも人気があった。その味覚は留学先のイギリスのケンブリッジ仕込みであった。 後年、父の遺産が入ることになって、「あれだけあれば3年間は飲める」とロンドンで暮らしたが、2年余で使い果たし帰国する。「遺産は全部飲んできた。お蔭でさっぱりした」といった。その遺産は現在の価値で5千万から1億円だったそうだ。(『叙情と闘争ー辻井喬・堤清二回顧録』) その健一の父が吉田茂(1878-1967)である。吉田茂の父…