第一書房はバアル・バック『大地』三部作のベストセラー化と併走するように、昭和十二年の日中戦争の始まりと翌年の創業十五年を機として、「戦時体制版」を刊行していく。まずは昭和十三年十月に杉浦重剛謹撰『選集倫理御進講草案』、高神覚昇『般若心経講義』、山内霊林『禅学読本』、バアル・バック『大地』三部作、同『母の肖像』、ジイド『ソヴエト紀行修正』の八点が出版された。 これらは四六版、軽綴軽装版、定価は七十八銭で、最終的に何冊出たのかは『第一書房長谷川巳之吉』の「戦時体制時代」にも記載がない。そこで同書所収の大久保久雄編「第一書房刊行図書目録」をたどってみると、十七年までの刊行として三十七冊があがっている…