国後島(くなしりとう)の東海岸を航行する船から、雪の残る頂が見えてきた。爺爺岳(ちゃちゃだけ、標高1822メートル)だ。 「私にとって心の支えのような存在。故郷に戻ってきたという実感がわきました」 2000年6月、木元護さん(86)=北海道木古内(きこない)町=は初めての自由訪問で、島のほぼ東端に位置する白糠泊(しらぬかどまり)を訪れた。ここで生まれ、終戦後も3年間住んだ。 当時は、湾に張り付くように60戸ほどの集落があった。終戦後の過酷な体験を忘れるわけではないが、島の豊かな自然の中で遊び回った記憶ばかりよみがえる。 磯でハナサキガニを取ってきては、ゆでたものをおやつに食べた。海が荒れれば馬…