『味覚極楽』/子母澤寛/中公文庫/1983年刊 引越しに向けて本を整理する中で、特に料理関係の本は線引きが難しかった、と前回書いた。処分するか持っていくか、もしなんとなくの基準があったとしたら「類書があるかどうか」だったかもしれない。少なくとも前回の『逃避めし』と今回の『味覚極楽』については「これはちょっと、変わった本だからなあ」と捨てがたく思った覚えがある。 さまざまな著名人が行きつけのお店やお気に入りの手土産を紹介する企画は、今のメディアでも定番だ。しかし『味覚極楽』の初出は昭和2年の東京日日新聞(現・毎日新聞)。○○子爵とか○○元大臣とか、当時は「おおっ」という感じだったかもしれないが、…