2022年の直木賞候補作となった『絞め殺しの樹』を読んだ時には、やはり道東出身の先輩作家である桜木紫乃さんの亜流という印象を持ってしまったのですが、自然や野生を題材とする作品こそが著者の持ち味なのでしょう。さすが「元羊飼い」です。本書は明治後期の北海道を舞台とする熊猟師の物語。 孤独な猟師に育てられた主人公の熊爪は、己の生い立ちも知らないまま、やはり猟師になりました。死期を悟った育ての親が雪中に消えた後は、名前もつけていない猟犬とともに山小屋に住み、時折ふもとの白糠の町に毛皮や獣肉を売りにいく以外は人の交わることはありません。そんな熊爪の生活を一変させたのは、冬眠しない羆に襲われた阿寒の猟師を…