2010年に第143回直木賞を受賞した作品で、2014年山田洋二監督によって映画化された。映画は主に女中タキが仕えた女主人時子の秘めた恋に重きが置かれていたように思うが、小説は舞台となった戦前から戦中の中流階級の生活が、こまやかにいきいきと描かれていて大きな魅力になっている。 特に戦争中の東京の様子や市民の戦争に対する受け止め方が、多くの戦争文学や戦争を扱ったこれまでの映像作品とかなり違っている。タキが自分史として書き綴っているノートを見た甥(妹の孫、甥の次男)の健史(たけし)が、「知識として知っている戦争中の様子とあまりに違う、嘘を書いてはダメだよ」と言うほど、のんびりしている印象で、これが…