坪内逍遥が「新旧過渡期の回想」*1と題して、明治初年から10年あたりまでの文学の動向を、懐古的に記している。 『小説神髄』を著して、ちょっと外に類例のない実践編を含む概括的な理論書をものした逍遥だから、目配りがきいていて、全体像をつかむことに優れている一篇になっている。 明治10年で区切る、というのは数字としてキリがいいからではなく、この年に西南戦争があったからである。不平士族の乱に見られる維新のやり直し、その武力抵抗が終焉を迎える。これを受けて、そののちの自由民権運動は、言論による維新の素志を継いだものとなる。西南の役で、鎮台兵の大砲や小銃が薩兵を攻略したように、新聞・雑誌によって形成される…