坪谷善四郎は号水哉、博文館の雑誌「太陽」の初代主筆で出版人。 その著書『海外行脚』(博文館 明治44年)は海外旅行、海外渡航の模様をかいた本。その「北米西海岸行脚」の一節。時は明治40年、常陸山の渡米の少し後の9月のこと。日本郵船の信濃丸が、カナダのヴィクトリア港を経て、シアトルへ入港しようとしている。 翌十九日の朝、常より早く起き出れば、船は最早ヴィクトリア港から六時間の航程を走つて、ポート、タウンセントに停泊中だ。西南を望めば、海岸に大市街横はり、山の如く木材を積む。是れが即ち米国太平洋岸北方の要港シヤトル市だ。昨朝は英国の検疫を受けたが、今また米国に入るに臨み、検疫医、移民官など、交る交…