何て読む? 昭和16年(1941) 1月1日、「風なく晴れてあたたかなり。炭もガスも乏しければ湯婆子を抱き寝床の中に一日をおくりぬ。昼は昨夜金兵衛の主人より貰いうけたる餅を焼き夕は麺麭と林檎とに飢えをしのぐ。思えば四畳半の女中部屋に自炊のくらしをなしてより早くも四年の歳月を過ごしたり。始めは物好きにてなせし事なれど去年の秋ごろより軍人政府の専横一層甚だしく世の中遂に一変せし今日になりてみれば、むさくるしくまた不便なる自炊の生活その折々の感慨に適応し今はなかなか改めがたきまで嬉しき心地のせらるる事多くなり行けり。時雨ふる夕、古下駄のゆるみし鼻緒切れはせぬかと気遣いながら崖道づたい谷町の横町に行き…