1992年5月、古河三樹松の私家版(上州復刻版)として復刻された根岸正吉/伊藤公敬の詩集。底本は1920年発行日本評論社出版部版。 序特異なる二個の人物 此の集の著者根岸正吉君が私の家に遊びに来てゐる時、其の姓名だけを云つて他の来客に紹介すると、『其の来客は大抵、『ア、そうですか』と至極冷淡な、通り一遍の挨拶をするが、『昔し「新社會」に詩を載せたN正吉といふのが此人です』と云ふと、『アッ、あなたがソウですか」と、忽ち其の挨拶が意氣込の違った熱心な者になる。彼が工場生活の間から發したウメキ聲は、それほど深い印象と感銘とを我々のグルーブの多くに奥へてゐるのだ。彼は其後少し健康を損じて、今は會社の事…