巻一 銀漢飛渡(天の川をも飛び越えて): 序章 雪は満ちる弓や刀に: 風雪荒れ狂う千里の雪原の中、長蛇のようにうねうねと続く数千もの騎馬軍が、山をも動かす勢いで、一人の武将を追いかけて行った。武将は黒い鎧に身を包み、跨る駿馬は既に鼻や口から血の泡を吹きながら走っている。矢が一斉に放たれては雪上を針の筵のように変える。 「身の程を知らぬとは愚の骨頂!」敵方の首領が遠くから叫んだ。「命が惜しければおとなしく捕らわれて、我と共に東都に帰って審問を受けられよ!」 武将は怒鳴り返した。「行ったらお前は裏切るだろう!」 「漸鴻。」別の千人隊が側面から近づいて来て、挟み込まれる。山野見渡す限り敵だらけだ。 …