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対人関係療法

サイエンス

対人関係療法

たいじんかんけいりょうほう

対人関係療法とは

対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy: IPT)は、期間限定の精神療法であり、もともとは非双極性・非精神病性のうつ病外来通院患者の治療法として、1960年代末からクラーマンやワイスマンによって開発され、1984年に出版されたマニュアルのなかで定義づけられました。対人関係療法は、臨床研究の分野では早くから知られていましたが、トレーニングのハードルが高かったこと、中心的な創始者であるクラーマンが若くして亡くなったこともあり、一般臨床家への普及は遅れました。


近年では、プライマリケア意志向けのうつ病治療ガイドラインや米国精神医学会(APA)のうつ病の治療ガイドライン英国のNICEガイドラインなどでも有効な治療法として位置づけられており、わが国においても、うつ病治療ガイドライン双極性障害治療ガイドライン摂食障害治療ガイドラインにおいて、有効な治療法として位置づけられています。


対人関係療法の適用・効果データ

対人関係療法は臨床研究のなかで開発された治療法であり、効果判定についてのデータは豊富にあります。NIMH(米国国立精神保健研究所)による大規模共同臨床研究では、抗うつ薬と同等の効果があり、重度のうつ病に対しては認知行動療法よりも効果があったことが示されています。また対人関係療法と抗うつ薬のそれぞれ単独治療による改善に伴い、どちらの治療でも糖代謝正常化前頭前皮質、左帯状回前部で低下、左側頭葉で上昇(Brotly ALら, 2001))、あるいは基底核の血流量増加(Martin SDら, 2001)が認められています。


薬物療法との併用により効果は高まりますが、対人関係療法単独であれ薬物療法との併用であれ、何らかの形で対人関係療法を受けた群は、治療終結後も心理社会的機能が伸び続けることが確認されています。月1回の維持治療であっても対人関係療法に焦点化されていたほうが寛解維持効果ははるかに高いことも示されています。


最近注目されている所見は、認知障害を持つ高齢者うつ病患者に対する適用です。双極性障害に対しても行動療法と組み合わせた対人関係・社会リズム療法(Interpersonal and Social Rhythm Therapy; IPSRT)が開発されており、薬物療法と対人関係・社会リズム療法を併用した方が、次のエピソードまでの期間が有意に延長されることが示されています。

うつ病以外の気分障害双極性障害気分変調性障害)の他には、摂食障害(主として神経性大食症(過食症)とむちゃ食い障害)不安障害社交不安障害PTSDにおいても効果が実証されており、その他、境界性パーソナリティ障害などでも有望な結果が示されています。


対人関係療法の基本にある考え方

対人関係療法は、原因については何ら仮説を立てず、患者が何をきっかけにして発症することが多いかという観察に基づき、すでに行われている治療の有効な部分を体系化しようとして作られたものです。体系化する際には、アドルフ・マイヤー、ハリー・スタック・サリバンを基礎とする対人関係学派、またジョン・ボゥルビィの愛着(アタッチメント)理論を参考にしています。


精神科的疾患は、その原因がどれほど多元的であろうと、通常は何らかの対人関係的な文脈の中で起こるものであり、発症、治療への反応、転帰は、患者と「重要な他者」との間の対人関係に影響を受けるものです。また、社会的役割と精神病理との関係は双方向で生じるものであり、社会的役割の障害が疾病のきっかけになると同時に、疾病によって社会的役割が障害されます。


このような根拠に基づき、対人関係療法では「重要な他者(significant other[s])」との「現在の」関係に焦点を当て、症状と対人関係問題の関係を理解し、対人関係問題に対処する方法をみつけることで症状に対処出来るようになることを目指します。


対人関係療法では認知行動療法とは異なり、認知そのものには焦点を当てません。非適応的な認知は病気の症状として理解し、治療の中では、現在進行形の対人関係上の出来事と、それにともなう感情との関連に直接焦点を当てていきます。


対人関係療法の進め方・技法

対人関係療法の特徴はその治療戦略にあります。治療戦略はマニュアル化されており、初期・中期・終結期それぞれの課題が規定されています。焦点を当てる対人関係については、4つの問題領域「悲哀」「対人関係上の役割をめぐる不和」「役割の変化」「対人関係の欠如(対人過敏性)」の1つか2つを選んで取り組みます。


医学モデルを採用している対人関係療法では、精神疾患も身体疾患と同じように考える「病気と人格の混同をやめる」という心理教育を行います。これは不必要な罪悪感を減らす効果を持っています。また患者に「病者の役割」を与えることも重要な治療戦略の1つです。病気とは単なる状態ではなく、病気であることが1つの社会的役割になるという考えです。通常の社会的義務や、ある種の責任が免除される代わりに、治療者に協力し、治療に積極的に取り組む義務が生まれます。


戦略こそが特徴である対人関係療法には、技法として特有のものはありませんが、技法は戦略の一環として用いられる点に特徴があります。

探索的技法、感情の励まし(面接内で感情表現を奨励する、感情を利用して対人関係に好ましい変化をもたらす、成長につながる感情を育てる)、明確化、コミュニケーション分析、治療関係の利用、決定分析、ロールプレイなどが用いられますが、治療の主眼はあくまでも患者が自らの力で問題を解決していくのを援助することにあるので、患者が有用な話をしたり望ましい変化を遂げたりしやすい環境を作るために非指示的技法を中心に用います。


対人関係療法は、たんに自己表現をすすめる、コミュニケーションの練習をするといったものではありません。そのため、ネガティブな考え方を変えるとか、対人関係が苦手な性格を変える、対人関係を改善する、自己表現やコミュニケーションスキルを高める、というのではなく、「重要な他者」との関係性に焦点を当てた「神経性大食症(過食症)」「うつ病性障害」「双極性障害」など特定の疾患の治療法です。