神話を考えるときには、かなりの注意が必要だ。伝承がおそろしく錯綜しているからである。見取り図を書けば、以下のようになろう。 まず、「正史正伝」というものがある。中央政府が認めたもので、要するに記紀(『古事記』『日本書紀』)である。これはテキスト化により固定されたものである。 次に、「副史副伝」。地方国庁がまとめたもので、諸風土記がそれに当たる。これもまたテキスト化され固定している。 エリートの手になるきわめて限られたこの両者の伝承の外に、「野史野伝」の大海がある。神社の縁起由緒や民衆口碑である。それはおよそ無秩序に見える。 それらすべてのおおもとに、「原史原伝」がある。ここから取り上げられ、選…