天皇霊

一般

天皇霊

てんのうれい

天皇が持っているとされる霊的な威力。

『日本書紀』における用例

日本書紀敏達天皇紀に、「天皇霊」という言葉の次のような用例がある。

臣等蝦夷。自今以後子子孫孫。用清明心、事奉天闕。臣等若違盟者。天地諸神及天皇霊、絶滅臣種矣。

これは、蝦夷首領朝廷に対して立てた盟約の言葉である。すなわち、「我々蝦夷は、今よりのち子々孫々にわたって、清く明らかな心をもって朝廷に仕えましょう。もしも盟約に違反したならば、天地の諸々の神と天皇霊が我々の一族を滅ぼしてしまうでしょう」と盟約を立てているのである。なお、ここでの「天皇霊」の読みは、「すめらみことのみたま」である。

日本書紀』における「天皇霊」の用例はこの1例のみであるが、それに近い「天皇之霊」は2例あり、「天皇之神霊」、「天皇威霊」、「天皇威」、「天皇之威」、「天皇之徳」、「頼於天皇」、「頼天皇」、「皇祖之霊」、「皇霊之威」、「皇威」、「天之霊」など、「天皇霊」と同じ意味で使われていると考えられる言葉を含めると、十数例を数える。

真床覆衾論

天皇即位したのちに最初に執行する新嘗祭は、「大嘗祭(だいじょうさい)」と呼ばれる。天皇霊は、この祭祀において天皇に付着すると考えられている。しかし、大嘗祭はさまざまな儀式から構成されており、それを構成している儀式のうちのいずれが天皇霊を天皇に付着させるものであるかという問題については、定説は存在しない。

折口信夫は、「大嘗祭の本義」と題する講演筆記の中で、「真床覆衾(まとこおうふすま)論」と呼ばれる仮説を提示している。これは、大嘗祭を構成する儀式の一つとして、天皇が寝具を被って物忌みをするという秘儀があり、天皇霊が天皇に付着するのはこの秘儀においてである、とする仮説である。

真床覆衾(まとこおうふすま)とは、天皇家の先祖である瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が高天原から日向国高千穂に降臨したとき、その神を包んでいたと記紀神話が述べている寝具のことである。真床覆衾論においては、大嘗祭において天皇がそれを被るとされる寝具は、真床覆衾と同一視される。

大嘗祭の中心的な祭祀は、「悠紀殿(ゆきでん)」と「主基殿(すきでん)」と呼ばれる二棟の建物の中で執行される。これらの建物のそれぞれには二つの神座が設けられるが、それらの神座の一つは寝床という形態を持つものであり、「寝座」と呼ばれる。真床覆衾論においては、天皇が真床覆衾を被って物忌みをする場所は寝座であると考えられている。

真床覆衾論は広く受容された仮説であるが、それに対しては批判的な見解も存在する。岡田莊司は、各種の文献を分析することによって、大嘗祭における寝座は天照大神が休むためのものであり、天皇といえども不可侵であると論証している。

参考文献