東浩紀著『観光客の哲学 増補版』(ゲンロン)が届いた。「はじめに」、各翻訳に書き下ろされた序文に、新章二章を加えた充実の一冊だ。パンデミックが起こり、戦争が始まって、一見すると「観光」の危機のように思われるが、しかしその内容が提起する議論はいまだに色褪せていない。寧ろ翻って、「観光」「観光客」を鍵概念とした哲学の提示は、その重要性を増しているよに思われる。もしくは、『ゲンロン0 観光客の哲学』が出版された六年前と較べてその問うている議論の意義が変わっているとも言える。 私は著者の熱心で良い読者ではない。東の著者を初めて読んだのは、自分の世代にはおそらくよくあるようにそのデビュー著作である『存在…