今回引用した4月21日の『戦闘詳報』によると、出水上空は朝から晴れとある。矢筈山系は陽光を浴びて新緑に輝き、コバルトブルーの不知火海は息をのむほどに美しい。林大尉にとっては、つい3か月前まで天翔ける鶴に遠慮しながら紫電の訓練を行った懐かしい空域でもあった。 しかし、この日の林の視線は19機編隊の最後尾を行くB-29にロックオンされたまま微動もしない。今日は必ずB-29を仕留めるつもりだった。「明日、一機も撃墜できなければ俺は帰ってこない!」昨夜、菅野に言い放った捨て台詞が脳裏によみがえる 菅野は林の一期後輩ながらB-29撃墜の赫々たる成果を上げている。しかし林はラバウルやフィリピン方面で数多く…