二 クルド人の全盛 アイユーブ朝の短い天下 サラーフッディーンが創始したアイユーブ朝は、彼の死後もエジプトを基盤に版図を拡大し、シリア、パレスティナ、イエメン西部にもまたがる超域的な領域国家に成長した。これはクルド人が世界史の中で主役を演じたほぼ唯一の機会であったが、それが故地から遠く離れた場所においてであったのも皮肉である。 しかし、アイユーブ朝は長続きしなかった。その要因として、サラーフッディーンの死後間もなく王朝は彼の兄弟ら親族によって簒奪、分割されたことが大きい。その点では、サラーフッディーン後継者と目されていた長男アル‐アフダルが酒色に溺れる統治不適格者であったことは問題であった。 …