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父称

一般

父称

ふしょう

人名の一部として用いられる、本人の父もしくは男系祖先の名に由来する呼び名。世界の多くの文化圏に存在するが、日本では特にロシア語のそれが有名であるため、ここではロシア語のものを主に解説する。

ロシア語においては、名と姓の間に父称を入れて父の名を表示する。英語圏のミドルネームと異なり、自動的に、全ての名に対してつけられる。父の名に、息子なら-евичもしくは-ович、娘なら-евнаもしくは-овнаをつけて作られる。

たとえば、文豪ドストエフスキーのフルネームは、

Фёдор Михайлович Достоевский(フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー

と綴られる。このうちМихайлович(ミハイロヴィチ)の部分が父称である。これによって、父の名がМихаил(ミハイル)であることがわかる。

女性の場合、たとえば革命家クループスカヤのフルネームは、

Надежда Константиновна Крупская(ナヂェージダ・コンスタンチノヴナ・クループスカヤ)

と綴られる。このうちКонстантиновна(コンスタンチノヴナ)が父称であり、父の名がКонстантин(コンスタンチン)であることがわかる。なお、姓のКрупская(クループスカヤ)は、Крупский(クループスキー)家の女性であることを示す。ゆえに彼の父の姓名はКонстантин Крупский(コンスタンチン・クループスキー)であることがわかる。

ロシア語において、姓は日常的にほとんど用いられず、かわって敬意を込めた呼び方(日本語の「○○さん」「○○先生」にあたる)の際には「名+父称」のセットが用いられる。ゆえに、ドストエフスキーは、親しくない間柄の相手からは「ドストエフスキー先生」ではなく「フョードル・ミハイロヴィチ」と呼ばれていたはずである。

ロシア語だけでなく、ウクライナ語やベラルーシ語などでも父称は用いられる。

ロシア語以外の言語では、たとえばアイスランド語でも父称が用いられる(まれに母称を用いる人もいる)。アイスランド語では、父の名の属格に、息子なら-son、娘なら-dóttirをつけて父称がつくられる。たとえば、同性愛者であることを公言した世界で初めての首相Jóhanna Sigurðardóttir(ヨウハンナ・シーグルザルドフティル)の名は、Sigurðardóttirの部分が父称であり、彼女がSigurður(シーグルズル)の娘であることがわかる。アイスランド語には基本的に姓が存在しないため、彼女は「シーグルザルドフティル首相」ではなく「ヨウハンナ首相」と呼ばれるべきである。

また、エチオピアエリトリアでは、本人の名の後ろに父の名を示す(さらにそれより前の祖先の名をつけることもできる)。東京オリンピックでの男子マラソン優勝者Abebe Bikila(アベベ・ビキラ)の名はアベベであり、ビキラは父の名である。

現在では父称を用いない言語においても、父称に由来する姓は多く見ることができる。たとえば、セルビアクロアチア語の-vić(〜ヴィチ)、ポーランド語の-wicz(〜ヴィチ)、英語の-son(〜ソン)、アイルランド語のO’-(オ〜)、スコットランドゲール語アイルランド語Mac-, Mc-(マク〜)などがよく知られている。