音楽学の中でも民族学(文化人類学)的な視点・方法を用いる研究領域。「民族音楽を研究する学問」というのはよくある誤解で、ここでいう「民族」は一般にイメージされる伝統文化・民俗文化に限らず、都市文化やサブカルチャーも含めたあらゆるタイプの社会集団を指している(この誤解を避けるためもあって、近年の民族音楽学者は「民族音楽」という語自体を用いない傾向にある)。
世界的視野での音楽の研究は、19世紀末ドイツの比較音楽学に端を発する。そこでの研究は西洋音楽の理論を基準とし、西洋にとっての他者である諸文化の音楽体系を、それと比較することで明らかにしようとするものだった。しかし20世紀中盤のアメリカを中心に、文化相対主義を背景として、それぞれの文化が持つ価値体系のあり方に重点を置いたアプローチが見られるようになる。民族音楽学(ethnomusicology)という名称はその頃から用いられ始めた。
ある人々がどのようにして音楽を生み出し、価値づけているのかを研究テーマとし、伝承と変容、音楽と社会構造の関係、コミュニケーション、アイデンティティ、グローバリゼーションなどが個別の問題関心として挙げられる。また、「音楽」を単に音の構造としてのみ対象化するのではなく、音とそれにまつわる行動や概念のセットとして扱う。
対象となる文化でのフィールドワークにもとづくエスノグラフィーが主な研究方法となるが、楽譜を用いた音楽分析も重視されるところに音楽学としての特徴がある。近年では、過去に録音されたレコードなどの資料性にも注目が集まっている。さらには言語学、メディア研究、カルチュラル・スタディーズといった関連領域とも積極的に(節操なく)接続している。
諸民族の音楽を学ぶ人のために―生活/表象/歴史/伝統/古典/現代/大衆/集団/声楽/宗教
The Study of Ethnomusicology: Thirty-one Issues And Concepts
Thinking Musically: Experiencing Music, Expressing Culture (Global Music Series, 1)
World Music: Traditions and Transformations