江戸の侍・村尾嘉陵(1760-1841)の江戸近郊散策日記の道筋を辿るシリーズ。今回は練馬区の石神井である。東京以外の人たちにとっては意外に難読地名かもしれないが、これで「しゃくじい」と読む。 時は文政五年九月十一日頃。日付の後に「頃」がついている。原文だと「長月の十一日ばかり」。出かけてから日が経った後に書いたのだろうか。今の暦だと1822年10月25日である。この時、嘉陵は数えの六十三歳。 「石神井村の弁才天に詣でようと、朝早くに出る。明け方は少し雲が多く、今にも降ってきそうな気配であったが、しばらく様子を見ているうちに晴れてきた」(現代語訳:阿部孝嗣) 当時、嘉陵はまだ隅田川に近い浜町に…