滑石でつくった直径20〜30cm,深さ10cmほどの鍋。体部上方に鍔のめぐるものと把手のつくものとがある。近畿以西の平安時代後半から室町時代にかけての官衙遺跡,集落遺跡から出土する。外面にすすが付着しているので,実用に供されたことは確かであるが,詳しい用途はまだわかっていない。長崎県西彼杵半島には石鍋をくりぬいた痕跡を残す滑石露頭が各所にみられ,当地が石鍋の主要な生産地であったことを知りうる。国の史跡の大瀬戸町ホゲット遺跡はその代表的なもので,1979年の長崎県教育委員会の調査により,11ヵ所におよぶ製作跡がここに集中していることと,切り立った滑石露頭がまず碁盤目状に区切られ,その各区画から一つずつ石鍋をえぐりとるという整然とした製作工程とが明らかにされた。