東京を尋常ならざる風雨が見舞った。 明治十三年十月三日のことである。 季節柄から考えて、おそらく台風だったのだろう。 瓦は飛び、溝は溢れ、街のとっ散らかりようは二目と見られぬまでだった。 品川区の霊場たる東海寺では、樹齢百年をゆう(・・)に超す松の古木が無惨に薙ぎ倒されている。 それほどの嵐であったのだ。 さて、それから五日後の夜。 パトロール中の警官が異様なモノを発見している。 台風の残した、意外な爪痕と言うべきか。 場所はまさに先述した東海寺、横倒しに倒れたままの古松の附近。 月光が生む淡い影だまりの中で、何かがもぞもぞ蠢いていた。 (すわ、妖怪――) 場所といい時刻といい総合的な雰囲気と…