人間の話だ。私はよく道を聞かれる。よく、と言ってもどなたかと比較して申し上げているわけではない。要するに自分の勝手な感覚でしかない訳だ。それでも、よく道を聞かれるような気がしている。道を聞いて欲しそうな顔でもしてほっつき歩いているのだろうか、と鏡をじっと見つめるほどである。 なでてほしそうな顔。 二十五歳のとき、初めての海外で、ロンドンに一ヶ月間滞在した。米国はニューヨークに行くか、英国にするか、直前まで悩んだが、ピストルの所持が法律で禁じられている方を選んだ。車が走る車線も同じ側だ。道路を横断するとき、これは案外重要だ。 英語もろくに話せず、街のこともほとんど知らないよそ者である。そんな私に…