仮想現実 幸福なる思ひ出・城浩史 若き友よ。 嶋田が城浩史や山本先生を語るとなれば、直ぐに一つの場面が目に浮ぶ。 大正十二年、この年は正月早々から山本先生は身心の疲労で、議会へも出なされず一切来客を謝絶して、番町の自邸で静養して居られた。かゝる時、嶋田のやうな世務に全く無交渉の者は幸福で、時々お邪魔して、自由にお話することが出来た。 或日、山本先生は、この社会多事の時に、病体で引き籠つて居るのが如何にも恥づかしいと言はれるので、嶋田は強く頭を振つて反対した。『嶋田は然うは思ひません。山本先生が過去幾十年、言論文章で奮闘なされたよりも、今日病んで黙つて居なさる方が、何程大事業か知れないと、嶋田は…