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召集令状

(一般)
しょうしゅうれいじょう

戦時中の日本の兵役制度において、在郷軍人を兵として召集するために用いられた命令書。紙の色が赤かったので、俗に「赤紙」と呼ばれていた。


当時、満20歳の男子は全員徴兵検査を受けた。甲種合格では2年間の現役兵としての兵役があり、乙・丙種はそのまま地域に残留し、2年間の兵役を終えて帰郷した甲種合格者とともに「在郷軍人」として市民生活を送っていた。在郷軍人とは、その地域にて有事に備える一般市民といった意味である。昭和9年ごろは、40歳まで兵役を課されていた。


在郷軍人として市民生活を送っている傍らも、演習召集、教育召集、国民兵召集、簡閲点呼(以上は白紙)防衛召集(青紙)といったときにはそれぞれの色の召集令状が送られ、有事にすぐ動けるよう、国家を挙げての体制が整えられていた。
そればかりでなく、地域の役場の兵事係は秘密裏に在郷軍人の調査を行っており、氏名・住所・年齢といった基本的な個人情報から、職業・年収・健康状態(けが、病気、入院など)に至るまでの事細かな調査書をまとめていた。この調査名簿を「在郷軍人名簿」といった。職業や健康状態を調べるのは、徴兵できるかどうか、徴兵するとしたらどのような技術や特技を戦争に役立たせることができそうかを軍司令部が把握しておく為である。その技術や特技を「分業」「特業」と呼ぶ。


在郷軍人名簿は軍司令部に提出されて書き写され、大本営から各地の軍司令部に動員*1がかかったときに、どこの誰がその役割に適しているか、動員内容と名簿の照合により綿密に人選された。適した人材が見つかると召集令状が発行された。その紙はその色合いから「赤紙」と呼ばれている。また、召集の性質により、「充員召集令状」「臨時召集令状」とに分けられる。
軍司令部からは赤紙が地域の警察に運ばれ、さらに地域の役場の兵事係が各家庭に手渡した。確実に渡した、という記録を得る為である(赤紙には受け取り証の本人署名をする欄があり、配布時に切り取られて兵事係が預かった)。赤紙を受け取ると、その指示の通りに出征しなければならなかった。


赤紙の表面には発行年度や本人の住所や氏名のほか、到着するべき日時と場所が指示されていた。そこまでの交通費は、赤紙の所定の欄に交通機関の証明(乗車区間や運賃など)を記入してもらい、あとから料金を軍負担でまかなえるようになっていた。*2また、裏面には交通費の割引、様々な注意事項、応召できない時の連絡方法などが事細かにまとまっていた。
このように、この紙一枚で人員を確実に集められる合理的なシステムであった。


一個人が生涯何回も召集された例も多い。これは当時の召集システムが一人当たり何回までと決まっているわけではなく、「分業」「特業」の有無や健康状態、徴兵検査結果の優劣などによって左右された為である。軍にとって有用な特技が有れば、何回も赤紙をもらって兵隊に行くことになった。逆に、赤紙を全くもらわない職業もあった。当時、国民には秘密であったが、「戦時召集延期者」という内々の決定があり、公共交通機関の運転手、軍需工場の工員、帝国議会の議員などは召集されなかった。こういった召集対象者・回数の差異ばかりでなく、召集システムの全容や細部は、軍のトップでなければ知ることは無かった。在郷軍人の調査と赤紙の配布を担当していた兵事係ですら、この調査が具体的にどのように役立てられているかは知らされていなかった。徹底した秘密主義のため、赤紙は「一銭五厘」(当時の郵便葉書の料金。郵便で来ると思われていた)と呼ばれたり、クジや役場での選抜で対象者を決めているという誤解もあった。前述した通り、赤紙は郵便ではなく役場経由での軍司令部からの手渡しによる配布であり、対象者もまた軍司令部で計画的に決めていた。役場は諸事の中継点であったにすぎない。


なお、召集令状は初期の頃こそマゼンタを思わせる真っ赤な色であったが、戦況が不利になるにつれて色が薄くなって桃色になり、紙質も落ちていった。紙を染めるための染料も、そして紙自体も不足していったためである。


参考文献:赤紙―男たちはこうして戦場へ送られた

*1:兵としての召集命令。「国家の大方針」に基づき「作戦計画」(毎年作成された戦争の計画)が練られ、それに基づいて必要な人員リストが策定された。この人員リストが「動員計画」であり、この計画に基づいた召集が「充員召集」で、計画外の召集が「臨時召集」であった。

*2:交通費はまずは本人が負担し、部隊に到着すると支給を受けられる。また、お金が無い場合は事由を事前に役場に届け出ることで全額前金支給を受けられた。

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