後期クイーン問題@20110127010637

-作家・批評家の法月綸太郎が提唱した、推理小説に関する問題。「作中で探偵がたどりついた真相が、本当かどうかは作中の探偵にはわからない」という状況を指す。

-推理小説の多くは、探偵役が特権的な地位から「事件の真相」を語るという形式をとっているが、作家が読者にしかけたトリックと、作中の犯人が探偵に仕掛けたトリックを、作中人物である探偵は区別することができない。つまり、探偵は、たどり着いた真相が唯一無二のものであるのか、本当は特定できないことになる。

-「後期クイーン問題」という名称はエラリー・クイーンが、この問題を重大なテーマとして扱ったことからとられている。初期作品である『ギリシャ棺の謎』(1932)から、既に「犯人によって誤った推理に導かれてしまう探偵」というモチーフが登場しているが、後期の長編『十日間の不思議』(1948)と『九尾の猫』(1949)では、主人公がこの問題に直面し苦悩する姿が描かれている。

-また、この問題から派生して、特権的な立場から犯人を断罪する探偵は容認され得るのか、という論点も生じており、「後期クイーン問題」には、こうした倫理的な問いかけも含まれる。

-ボルヘスの一部の作品や、同時代のアントニイ・バークリーなどにも、これらの問題を見出すことができるが、推理小説という枠の中でもっともこの問題に真摯に取り組んだのがクイーンだったといえる。

-初めてこの問題を指摘したのは、法月綸太郎の「初期クイーン論」(1995)である。この評論では、笠井潔や柄谷行人が援用されており、「ゲーデルの不完全性定理」とのアナロジーが用いられている。このため推理小説における「ゲーデル問題」とも称されたが、実際のゲーデル理論とは何の関係もないため、混同を避けるため、現在では「後期クイーン問題」と呼ばれることが多い。
-諸岡卓真の研究によれば,《後期クイーン的問題》という語の生成については明らかではないとしつつも,笠井潔が『野生時代』1996年4月号に掲載した評論において法月が提起した問題を指して「いわゆる後期クイーン的問題」と称していることが,この語の流通する契機であったろう,としている。((諸岡『現代本格ミステリーの研究――〈後期クイーン的問題〉をめぐって』ISBN:9784832967328(北海道大学出版会,2010年)6頁以下を参照。))

-この問題を自作に取り入れた作家として、瀬名秀明、小森健太朗などが挙げられる。また二階堂黎人のように、こうした問題提起は不毛だと反対する作家もいる。